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第10話

「こんな話、岡本にしかできないのだけど……」  声を潜めて岡本に話す。顔に似合わずビールを飲んでいた岡本も、同じく小声で返してきた。 「え、なになに?僕で良ければ聞かせて」 「発情期のとき、どの抑制剤飲んでる?」 「ああ、僕の場合は一日目が重いから、これ飲んでる」  岡本が鞄の中から取り出したポーチには、三、四種類の錠剤が入っていた。輝が目にしたこともある物もあるが、きっと効果が強い薬もあるだろうと分かった。 「なるほど。ありがとう」 「輝は?」 「俺はこれかな」  岡本のポーチにも入っていた錠剤を指さす。 「輝のは軽いんだね。僕はこれ、始まるかな?ってときと終わりかけの時しか飲まないかな」  侑一としているから軽いものだけで良いとは言えなかった。それに、今まで抑制剤の種類について考えたことがなかったことが恥ずかしい。 「そっか」 「僕も輝みたいにパートナーが欲しいなあ」 「え?」 「侑一とは長いんでしょ?」  一瞬ギクリとする。幸い、動揺していることはバレていないようだ。 「幼稚園の時からの幼なじみだけど……岡本が言うパートナーとは違う気が」 「ウソ、番じゃないの?」  本気で驚いたらしく、大きな眼がさらにまん丸になっている。 「侑一とは親友だから……」  同じことをつい最近も言った気がする。 「侑一のこと、好きじゃないの?」 「好きだけど、恋愛の好きがわからない」  納得がいかないような顔をして、岡本は輝を見つめる。でも、本当のことなのだから、それ以外に言いようがない。 「岡本は可愛いから、パートナーはすぐにできるだろ」 「誰でもいいわけじゃないし。理想が高いのかなあ。やっぱり、運命の番って見つからないものなのかな」  ふう、とため息をつく姿は決して大袈裟ではなく、可愛いと思う。 「岡本はロマンティックなんだな」  運命の番なんて、想像上のものだと思っている。  そもそも、番に夢を見ていない輝にとっては、シンデレラや白雪姫なんかのお伽噺と同じだ。 「そうかなあ。でもさ、輝、このままだと侑一取られちゃうよ」

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