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第14話
どきりとする。
それと同時に、やっぱり気づいていたかという気持ちもあった。
「何があったわけじゃないけれど……」
「貴方たちのことだから、長引くような喧嘩はしていないと思う」
「うん」
「まあ、いつでも戻ってきていいのよ。ここからでも学校は通えるわ」
「そう……だね。母さん、俺、侑一と一緒にいていいのかなあ……」
母親が微笑んで、答える。
「いていいか悪いかじゃなくて、輝が侑一君と一緒にいたいならそうしたらいいわ。侑一君だって、嫌ならそう言うわよ」
自分の気持ちは、侑一と一緒にいたい。ずっと変わらないことだ。
侑一に、嫌われたくない。
それが、一番しっくりくるような気がした。
「母さん、多分明日からアレが始まるから、部屋に篭るね」
お盆の終わり、輝の体に兆しがあった。
「わかったわ。無理しないでね」
部屋の中は高校時代のまま、その殆どが残されている。
水分としてペットボトルの水を数本を用意しておく。発情期が始まってしまったら外には出られない。
一本を開け、抑制剤を喉に流し込む。いつも服用しているものより、少し高価で効き目が強い。
ただ、これが自分の体に合えば、一人でも発情期を乗り越えられるだろう。
これで、侑一にも迷惑をかけずに生きていける。
そう考えたのだったが、発情期はそう甘くは無かった。
予定通り次の朝から体が怠く、熱を持ったように汗が吹き出てきた。それまでなら今までも経験してきたが、時間が増すごとに心臓の鼓動がどんどん速く、そして息苦しくなってくる。
刺激が欲しい。衝動のままに性器を擦っても、満たされない。もっと体の奥が疼いてたまらなかった。
これほどの欲望を耐えなければならないのか、と輝は愕然とする。
「はぁっ……うぅ……」
初めての薬剤だからか、あまり体にあっていないようだ。強すぎる情欲は鎮まるどころか、吐き気も催してしまい初日に使った後は服用をやめた。やむを得ず常備している最も軽い抑制剤を飲むが、今はいないαを求めてしまう。
いくら体を慰めようが虚しさだけが広がっていった。
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