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第17話
「ああ、もう」
低く唸ったかと思うと、いきなり正面から抱きしめられた。びっくりして、あれだけ溢れていた涙が止まった。
「俺は番いたいよ。子どもも欲しい」
番いたい、その言葉にずきん、と胸が痛む。やはり、侑一はそう願うのか。
「こども……」
「ああ。輝と俺の子なら絶対可愛いぞ」
「え……俺の⁈」
はあ、と侑がため息をつく。
「いい加減気づいてくれ。俺は輝にプロポーズしてるんだ」
「ぷ、プロポーズ!?」
次から次へと思わぬ言葉が降りかかってきて、輝は目を丸くするしかない。
付き合う、付き合わないの話だと思っていたのに、話が何段階も飛び越えていて処理が追いつかない。
思わず腕の中から抜け出そうとするも、強い力で抱き込まれて阻止される。「少し話を聞いてくれ」と言われたら、侑一の胸でおとなしくするしかなかった。
「幼稚園でおまえに出会った時」
「う、うん」
いきなり昔話が始まって、少し冷静になる。実家が近所だから、幼稚園からずっと同じだった。
侑一が年中の時に、実家ごと引っ越してきて、それからの付き合いになる。
「運命の番だとすぐに気づいたよ。こんなに可愛い生き物がいるのかと思った」
「え……運命の番?」
運命の番。ドラマや映画の中だけの話だと思っていた。一目見た時からお互いに惹かれあって、離れがたくなってしまう本能で愛し合う関係。
「そうだな。物心つく前から輝のそばにいたから、おまえは気づかなかっただろう?」
「し、仕方ないだろ……」
余りにも二人でいる時間が長く、それが自然だった。一緒にいることが当たり前に思っていたが、松坂から「離れてみろ」と言われて初めて、実は何にも無しに隣に居られることなんてないのだと気づいた。
「いや、いいんだ。親友というポジションも欲しかったから。小学五年生の時、初めて発情期が来たよな。あの時は神に感謝した。やっぱり、俺の番だ、って」
「そんなふうに思っていたのか、俺は大変だったのに」
あの頃を思い出して、唇を尖らせる。
自分がΩであることを知った時の衝撃は忘れられない。
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