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第24話
「母さんと、父さんになんて言うかな……」
気恥ずかしさから、項の噛み跡をさすりながらぽつりと漏らす。すると、侑一が言いにくそうに口を開いた。
「……輝、お前の両親のことなんだが」
「うん?」
「前に、輝を俺にくださいと言ってあるんだ……」
事後報告になってすまん、と侑一が謝る。
「え、ええっ?どういうこと?」
気まずそうに、ぽつりぽつりと話し出す。
「おばさんには、輝が発情期で初めて抱いた日……輝の部屋に行く前におばさんと話した」
また頬が熱くなるのを感じる。
番になると全く疑わず、輝だけを見続けてきた侑一。
少しでも侑一と別の人との未来を考えてしまった自分が恥ずかしかった。
「あと、去年同居の挨拶に行ったとき。おじさんにも輝と番になりたいと頼んだ」
「俺がいないときに何してんだ……」
お手洗いに行くために一瞬席を外した時があったが、まさかそんな話をしているとは思わなかった。
「二十歳になったら、輝にプロポーズするって決めていたんだ」
まだ二十歳にならないうちにしちゃったけど、と言って侑一が笑う。
勝手にされたことには怒るべきなのかもしれないけれど、侑一が長年想い続けてくれて、尚且つ、いつでも項さえ噛んでしまえば番になれるというのに待ち続けてくれたことにじんわりと嬉しさが込み上げる。
寝返りを打って、侑一と向き合う。そして、こつん、と侑一の頭にげんこつをひとつお見舞いした。
「輝……?」
「これで許す!でも、今度実家に行くときは侑も連れて行く。拒否権はないからな!」
「ああ、もちろん一緒に行くよ。次は結婚の挨拶をしなきゃな」
「お前、反省してないな?」
まあ、いいか。番になったのだから。
にこにこと笑う侑一に、好きだなあと思うから仕方がない。その気持ちを込めて、背中に手を回してぎゅうぎゅうと抱きついた。
「俺の両親も、輝のことは気に入っているから大丈夫だ。いつ番になるのかとうるさいくらいだ」
侑一も、抱き返してくれる。
「それは……いい報告ができるのかな?」
同居するための挨拶の際に、あっさりと認めてくれたのはそういう訳だったのかと合点がいった。家族ぐるみで二人を見守ってくれていたのだ。
「めちゃくちゃ喜ぶと思う。俺は幼稚園児の頃から輝と結婚すると言い続けていたらしいからな」
「それはまた、スゴい執念だな」
熱烈な告白に、顔から火が出そうだ。この男は臆面なくどれだけ輝を好きなのかを真正面から伝えてくる。まさか、十五年以上も待たせてしまっていたなんて思いもよらず、なんだか申し訳ない。
とはいえ、自分だって侑一と番になりたくなかった理由が「親友なら一生、一緒にいられる」と思い込んでいたのだから結局は同じ想いだったのだろう。
「うん。大学を卒業したら、籍を入れよう。指輪も、二人で買いに行こうな」
侑一が幸せそうに笑うから、つられて輝も微笑んで頷いた。
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