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第26話

 小学五年生の冬、輝が突然一週間も学校を休んだ。  親同士のやりとりから、体調不良であること、少しの間一緒に登校できないことを伝えられた。  輝がまた学校に来られるまで待つしかなかったが、輝が視界にいない世界はひどくつまらなかった。  ここぞとばかりに侑一を誘う同級生も煩わしい。  学校のお便りを輝の家に届けに行ったことも何度かあったが、玄関先で母親が対応してくれるものの「まだ輝は寝ているから、良くなったらまた遊んであげてね」と言われては輝の顔を見ることすらできなかった。  輝が学校を休み始めてから七日目、やっと輝から電話が来た。  「明日から、また学校に行くから朝待ってるね」と言われた時の侑一の頭は霧が晴れたかのように高揚を感じていた。 「たくさんお休みしちゃったから、授業はどこまで進んでいるのか教えてね」  朝、そう言って笑う輝はどこか疲れたような顔をしていた。 「ああ、わからないことがあったら聞いてくれ」  いつもよりほんの少しゆっくり歩き、学校へと向かう。  教室に着くなり、輝は保健室の先生に呼ばれて行ってしまった。  インフルエンザだったんだ、と輝は休んだ理由を言っていたが、それは本当ではないのではと侑一は何となく疑っていた。  その証拠に、登校しているときから輝の”あの匂い″が以前よりも濃く感じられた。  放課後、いつものように輝と一緒に帰った。  「久しぶりに侑と遊べるね」と笑う輝は相変わらず可愛い。  自宅に通学用カバンを置いてすぐに輝の家に向かった。輝の母親も今日はにこにこと侑一を迎えてくれる。  だが、輝の部屋に入った瞬間、今朝と同じ違和感を感じた。  引き寄せられるかのようにベッドに座る輝に近づき、息を吸い込んだ。 「輝、おまえからいい匂いがする」  いつも以上の強い匂いに、無意識に鼻を鳴らしながらそう呟いていた。  しまった、と思ったが輝の耳には入ってしまったようで、目を見開いている。 「え……」  仕方がないと諦め、ずっと確かめたかった一言をぶつけてしまった。 「もしかして、Ωか?」  空気がピリッと固まる。ぱっと輝の顔が青ざめる。 「どうして……」  目の前の大きな瞳の端がきらりと光った気がした。その瞬間、いてもたってもいられず、輝の繊い体を抱き込んだ。 「だいじょうぶだ、おれが助けるから」 「たすける……?」 「輝のとなりにずっといるから」  その時の侑一は、輝の不安とは裏腹に嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。 (やっぱり、輝が俺の番なんだ)

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