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第5話 ストーカー化するイケメン社長
しばらくはカミヤさんとの関係に満足していた。
会ったらドライブに連れて行ってくれて、美味しいものを食べて、セックスする。
僕のつまらない日常にピリッとした刺激を与えてくれる大人な恋人。
イケメンで、全てスマートにエスコートしてくれて、楽しませてくれる。
エッチも上手で、いい声で囁いてくれて気持ちよくしてもらえる。
ちょっとSっ気があっていじめてくるんだけど、ぼくもそれを楽しんでる。
最初はそう思っていた。
だけど、だんだんカミヤさんの束縛が激しくなって来た。
僕にだって他の予定があるし、いつもカミヤさんとデートばかりしていられない。
一応たまには同級生の誘いにも乗らないと、グループの中に居づらくなる。
それに、あまり頻繁に会ってあちこちに行って知り合いに会うのも怖かった。
しかもだんだん髪型とか、服装にも口を出すようになってきた。
服は別に買ってくれる分には着てもいいけど…。
そんなに好みではないから、とりあえずカミヤさんとデートするときだけ買ってもらった服を着るようにしていた。
でも、なぜかそれがバレて怒られた。
俺が買った服全然着てくれてないじゃないって。
たまたま街の中で見かけた僕が、カミヤさんの選んだ服じゃないのを着てたっていうんだ。
そんなの…そこまで言う?
ていうか知らないうちに見られてたの怖いんだけど。
ちょっと息苦しくなってしまった。
それで、しばらく会えないってメッセージを送ったんだ。
あのいい声で粘られたらこっちの決意もゆらぎそうだから通話はやめておいた。
そしたら意外とあっさり「わかった。しつこくしてごめんね」って返事が来た。
僕はちょっと拍子抜けしてしまった。
きっともっと何かと理由をつけて引き留めようとすると思ったから。
だってこれで僕がカミヤさんとの連絡を断ったら終わりな関係だもん。
僕は逆にちょっと焦ったくらいだ。
もう会わないなんてつもりじゃなかった。
少し距離を置きたいってだけで、カミヤさんのことは完全に切るつもりなかったんだけど…。
でも今更こちらから連絡するのもなって思って放置していた。
すると、それから僕の周りで不審なことが起き始めた。
まず、僕の配信中のチャットで知らない人から「兎月アイは淫乱肉便器」というのが連続で入った。
「え…なにこれ…」
消しても消しても同じ言葉が送られてくる。
すぐにそのアカウントをブロックした。
「まさか…カミヤさんじゃないよね…」
僕はちょっと背筋が寒くなった。
さすがにちょっと距離を置こうっていったくらいで大人がこんなことするわけないよ。
その後もたまに変なコメントやチャットが届いたけど、それはいつものことでもあったからスルーできた。
そしてある晩、セックスする相手がいなくなって性欲を持て余した僕はカミヤさんの声の録音をヘッドホンで聞きながらオナニーした。前と後ろをいじって、パソコンの前の椅子で。
すると翌日ポストに差出人の記載のない兎月アイ宛の手紙が入っていた。切手も貼っていない。
手紙には一言
「昨夜は気持ちよかった?」
とだけ書いてあった。
「あ…」
自宅がバレている。
ゾッとした。
たぶんカミヤさんだよね…?
でも…なんで家がわかったの?僕、一応家の位置は教えないようにしていたのに。
ていうかカミヤさんじゃない場合が一番やばい。誰?カミヤさんだよね?
どうしよう、怖い…
カミヤさんに連絡しないと…
スマホを持つ手が震えた。
なんとか震える指で、今夜話せるかって連絡を入れた。
「20時以降ならいつでも大丈夫だよ」
と平然と返事が来た。
「何も大丈夫じゃないよぉ…」
僕は泣きたくなった。
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