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第8話 瀬川と僕の秘密の共有
というわけで、放課後瀬川に家に来てもらった。
「本当に良いの?アイちゃんの撮影部屋入っても」
「良いよ別に。でもそのアイちゃんってのやめてもらえる?なんか瀬川が言うと鳥肌立つ」
「失礼だな…。わかったよ」
「どうぞ」
いつも配信を行っている部屋に入った。
防音ルームで、元々は昔バイオリンを習ってたときに使っていた部屋だ。
やめてから使ってなくて物置になってたのを配信用に使うようになった。
ちなみにうちの親は仕事が忙しくてあんまり家にいない。
国内にいることもあれば、海外にいることもある。
放任主義で、金だけはくれるから機材を買うのも好きにできた。
「うわーうわー、やーば、こんなの見れるなんて…!」
クールなイメージしか無い瀬川のテンションが上がってる。
こんな部屋見て何が面白いんだろ。
「これがカメラで、表情読み取ってキャラクターの表情動かしてるの。瀬川、アイの顔動かしてみる?」
「へ?俺が?いやいや!さすがにそれはダメでしょ」
「なんで?」
「それはお前がやらないと意味ないから」
「ふーんそうなの?」
機材に触りたいわけではないのか?
「昨日の配信はここじゃなかったよな」
「うん。カミヤさん…えっと俺のことを脅してる大人のことね…の部屋でやらされた」
「お前よく帰ってこれたな」
「え?」
「下手したら監禁されててもおかしくなかっただろそれ」
「そうかな?そんなにやばいかな…」
「いや、どう考えてもおかしいよ。あの後リスナーたちもTwitterでざわついてたし」
「え?」
「あの配信アーカイブ残さなかっただろ。なんか犯罪に巻き込まれたんじゃないかって話題になって」
「え…どうしよう」
「でもアカウントは削除してないだろ?だからまぁ、様子見ようって雰囲気になった」
「僕はアカウントごと削除したかったんだ。顔バレさせられて怖くて…。でもカミヤさんがダメだって」
「なぁ、そのカミヤって人は何が目的なんだ?」
「カミヤさんはバーチャルタレント事務所の社長なんだ。それで、僕と契約したいんだって。顔出しもしながら配信するのを想定してるらしくて…。そんなの絶対無理って断ったんだ。そしたら…」
「あー、なるほどそういうことか。お前の顔綺麗だからなぁ。顔出してやっても人気出るだろうな」
「やめてよ…絶対やだよ。そんなことしたら社会的に詰むでしょ」
「えー、それで食ってる人もいるじゃん」
「僕はそういうのは望んでないから」
「ふーん?人気になりたいからやってるんじゃないの?」
「違う…ただのストレス発散っていうか。性欲発散っていうか…」
「せい…っ、生々しいわ…。そもそも、なんでこんなことになったの?」
そう聞かれて僕は渋々これまでの経緯を話した。
もう、あの配信見られてるので恥ずかしがっても仕方ないから全部話した。
男の人たちとセックスしたことも。
「うぅ…俺のアイが…汚された…」
全部聞いて瀬川は顔を覆って項垂れてしまった。
「えっと、なんかごめんな?夢壊して…」
「お前バカだろ。こんなことして危ないに決まってるじゃん」
「でも僕、男だし…大丈夫かなって」
「大丈夫じゃないだろ実際!もっと自分のこと大事にしろよ」
「…大事にって何?」
僕はイラッときて言い返した。
「気安く言わないでよ。だって、ゲイなんて知り合いに絶対言えないし!こんなの知られたら終わりだろ?」
「それは…」
瀬川は狼狽えていた。
「でもえっちしてみたかったんだもん!お前たちだって女の子としてるだろ。僕だってセックスしたいって思ってなんで悪いの?」
僕は瀬川の顔を真っ直ぐ見つめた。
瀬川の瞳は揺れていた。
「ねぇ、なんで?僕が悪いの?」
瀬川の方が先に目を逸らした。
「わかったよ…でも、もうこういう訳わかんない奴と会うのはやめろよ」
「うん…それは…もうしない」
しばらく沈黙が続いてから瀬川が口を開いた。
「そんなにその…声が好きなの?」
「うん、好き」
「どんな声?」
「低くて…腰に響くやつ」
「はは、なんだそれ」
鼻で笑われた。良いだろ、趣味なんだから。
「瀬川の声も結構好みだと思ってたよ。前から」
「え?」
瀬川の顔がパッと赤くなった。こうやって二人で話してみると瀬川はそんなにクールじゃないってわかってきた。
瀬川がちょっと躊躇いながら言う。
「じゃあさ……俺じゃダメなの?」
「何が?」
「皐月が、変な相手に会わないで済むように俺が相手するんじゃダメなのかって」
「え…それどういう意味?まさか僕とセックス…」
僕が言いかけたところを遮るように瀬川が返してくる。
「いや!そこまで言ってない。ただその、声を聞かせるというか…」
「え?」
「この声でいいならなんでも喋ってやるから」
「え、エロいことも?」
僕はつい欲望のままに訊いてしまった。
「いや…え?まぁ…うん」
瀬川は少々面食らった様子だったけど頷いた。
「えぇ~~…それ良いね…」
え?え?瀬川の声でなんでも言ってくれるってこと?
それって最高じゃない?
僕はついにやけてしまった。
「お前…これで喜ぶんだ…?」
瀬川は何か変なものを見るような目で僕のことを見ていた。
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