2 / 126

第1章 密命 02※

「なんて顔してるんだよ、亜矢」 家に帰ると直ぐに自室にいるであろう結月さんのもとへ向かった。 あまりにも勢いよくドアを開けたものだから、いつも冷静な彼も目を丸くしていた。 「その顔……もう我慢できないって顔だな」 読書中にかける眼鏡をはずしながら、結月さんが僕にゆっくりと近づいた。 これからの行為を予感してカラダが疼く。抱き締められると、いつもの石鹸の香りが鼻を掠めた。この匂いを嗅ぐと安心する。 「結月さん……僕、もう……」 僕より頭ひとつ分背が高い彼の首に腕を回し、精一杯背伸びをしてその唇に触れた。 結月さんは完全に受身の状態だ。 痛む腰を気にする余裕もなく、無我夢中で舌を絡めると軽く顎を押さえられる。 「こら。へたくそ」 「だって……っんっ……」 ソファに半ば強引に座らせられ、今度は結月さんから舌を絡めてきた。不意打ちの上に、荒々しいキス。けれども触れる舌は熱く甘かった。 あっという間に彼のペースにのまれてしまい、体の奥がじんと痺れてゆく。少し悔しくなって、頬に手を添えて攻めようとしても、直ぐに熱い舌に浚われてしまう。 「ッア……ゆ、づきさんっ……僕っ」 熱に浮かされ、今までの我慢が限界に達した。結月さんの胸を手で押し、顔を見上げると、紺青の瞳が僕を捉えていた。ドクリと心臓が脈打つ。 「抱いてください……」 思わず口をついて出た言葉に、徐々に顔が火照っていくのを感じて俯くと、彼は小さく笑い、ゆっくりと手を掴んで静かにソファの上に押し倒した。 「亜矢、今日は何人の男に抱かれた?」 結月さんが首筋に紅い跡をつけながら、いつものように僕に訊ねる。 「え……?っと……三人です……」 「ふうん……まあまあか。じゃあ、このカラダだと……」 「っんっ……!!」 大きな手がするりと下半身に触れ、ビクンと体が跳ねた。 「最後は、沙雪か……」 呟くように言ったその声色が、いつもと違うことに、その時僕は気が付かなかった。 与えられる刺激に脳が支配される。 一向に直で触ってくれる気配もなく、ところどころにキスを落しながらシャツ越しに体を弄られる。 「ん、ぁ……だ、め……」 もどかしい愛撫に耐えきれず、その手を掴むと、耳朶を甘噛みしながら結月さんが囁いた。 「亜矢……沙雪で()ったりしてないよな?」 「も、そんなことあるわけないって分かってるくせに……っ」 僕は半ば機械的にそう返事をする。生理的な涙が頬を濡らしていた。 「は、やく……結月さん」 「今日はやけに甘えん坊だな。こんな亜矢を抱けるのも……沙雪のお陰か」 クスリと結月さんが嗤う。それと同時に下衣をすべて下ろされ、先走りで濡れたそれをダイレクトに扱れた。 「っひ……あぁっ!!」 一気に押し寄せてくる快楽。望んでいた刺激に思わず声を上げる。 「んっ……あ……アッ……」 「一回出せ」 「ぅふ……っああ……っ」 精を吐き出した気怠さを感じる間もなく、後ろに指が入ってきた。 「もう柔らかくなってる……。厭らしいな、亜矢」 「っあ……言わ、な、でっ……」 グチュグチュとナカを掻き混ぜられ、結月さんの綺麗な指の形までも、脳裏を強く刺激した。すべての神経がそこに集中する。 「……結月さん、お願い」 「ん……?」 「挿れて……」 「――あまり煽るな。手加減できなくなる」 「っひ……ぁ!」 結月さんの大きいモノが一気に僕のナカを貫き、足を持ち上げられガクガクと揺さぶられる。熱いカタマリが僕の内壁を擦り付けた。 「つっ……は……亜矢の中、熱いな……」 吐息混じりの彼の声がふわふわと耳に入ってくる。最初から激しいピストンに頭が朦朧として、口から次々に溢れる声を止めることが出来ない。 「ぁ……んっ、や……」 「亜矢……名前、呼んで」 掌で頬を包まれ、視線がかち合う。快楽に歪む彼の顔は、とても綺麗だった。 「ゆ、づきさん……。ゆづ……っ……」 ――こんな声、聞かせるのは貴方だけだから。 こんな淫らな姿、見せるのは貴方だけだから……。 「好きです……す……き……」 涙の雫を撒き散らしながら、うわ言のように呟く。上を見上げると妖しく結月さんが微笑んでいた。 「亜矢……綺麗だよ」 それを聞いて、全身に電流が走る。背中に回した腕に、ギュッと力を篭めた。 「っア……結月さんっ、結月さん……」 何度も名前を呼ぶ。結月さんが此処にいることを、確かめるように。 薄く目を開ける。 傾いた月に絶頂を見た。

ともだちにシェアしよう!