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第2章 偽り 02

「な~んか、うちのチームの男、浮ついてばっかだよな」 いつものようにミーティングを終え、研究室に帰るなり、端崎(はしざき)がそうぼやいた。 「そう言うお前も、あいつが居て嬉しいくせに」 「ばっか。宮白は目の保養だよ!保養!」 「保養って……。(しゅう)、それ女に聞かれたらぶっ飛ばされるよ」 おちゃらけた端崎を弥生が咎めるのを、俺は椅子に座ってぼんやりと聞いていた。そんな俺を見て、呆れたように弥生が話しかける。 「まったく。沙雪、最近変だよ。いつもだったら今日の議題なんて、建築オタクらしく熱くなってるとこなのに。何か言ってやってよ、萩」 「まあ、まあ。差しあたり宮白に惚れたってとこだろ?いくら女房役だからって、そこ突っ込むなんて野暮だぞ」 「萩っ!」 弥生は少し声を荒らげて、端崎の頭を軽く叩いた。 「何すんだよっ。そこまで怒る必要ないだろうがっ!」 「お前、後輩のくせに言うこと生意気!1年なのに研究室入り浸ってるし。兄ちゃんに言いつけるぞ」 「それだけはやめろ。あいつ怒ると口利いてくれないからさ。つか、後半関係ないだろ!」 まったく賑やかな連中だ。 あまり人付き合いは得意ではないが、それでも高校の生徒会で一緒だった汐野(せきの)弥生と、彼の幼馴染みである1つ年下の端崎萩は、傍にいてもまったく嫌ではなかった。 今日も宮白は俺の目線の先に座っていた。 どうやら俺は、この男に興味を持ってしまったらしい。気が付くといつも目で追っている。しかし、初日以来、宮白と目が合うことはなく、それが何故か残念に思えた。 ――それにしても、あいつの人に対する無関心な態度と虚ろな目はどうも気にかかる。 「まあ、沙雪さんも人のこと言えないけれどね」 俺はバッと顔を上げた。 「口に出てたよ。リーダー」 揶揄するように口角を上げた端崎がこちらを見ていた。宮白のことばかりを考えていることがバレてしまっただろうか。額に冷や汗が滲む。 「無関心な態度ねぇ……。でもあいつ、前は今みたいな感じじゃあ、なかったみたいよ」 「え……」 端崎の意外な言葉に、俺は思わず訊き返した。 「今と違ったのか?どんな風に……」 「実は宮白と高校、同じだったんだけどさ……」 そう言った端崎は、何故か溜息を漏らし弥生と顔を見合わせた。そして思い出すように二人が話し出した。 「俺も高校時代の宮白、見たことあるけど、前はもっと髪が長くて……。ホント、パッと見は女の子みたいだったんだよ」 「そうそう。性格も口調も、すごく女々しかったよなぁ。男に囲まれたらビクビクして、いつも泣きそうな顔してた」 それを聞いて俺は驚いた。 俺の知っている宮白は、淡々とした口調で喋る。 男が言い寄ってきても、顔色一つ変えない。時には煩わしそうにしているが、大きく表情を崩すこともしないのだ。 「何故か突然、あいつ変わったんだよね。……ああ、大学入学してからだ」 弥生の言葉に、端崎が「うん」と相槌を打つ。 「噂で聞いたんだけど、高校の時はヤられている最中泣き叫んで抵抗していたようだけど、今は怖いくらい無反応なんだと。  そんな強気な態度が逆に(そそ)るんだろうけど……。宮白、気が変になっちゃったのかもなぁ」 端崎が哀れむように言うのを俺は黙って聞いていた。 気が変になった? そんなに前から“そういうこと”をされているのなら、人間不信に陥るのも無理はない。他人に無関心なのも解る。 ……それでも。 「そういえば、まだ会議室に宮白と2年の奴が残ってたな。揉めていたみたいだったけど、大丈夫かな」 「……!」 それを聞くなり、俺は研究室から飛び出していた。 驚くように名前を呼ぶ弥生の声が背後から聞こえた。 何故か先刻から苛立ってしょうがない。いつもは気にしていなかったことでも、今日は何故か癇に障る。 足は勝手に会議室に向かっていた。 勢いよくドアを開けると、端崎の言ったとおり、まだ二人はそこにいた。そしてあろうことか、その場に全く相応しくない行為をしていたのだ。

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