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第2章 独占 06※

そして俺は今、この異様な空間に佇んでいる。 亜矢は本当に一ノ瀬のことで頭がいっぱいなのか、はじめ、俺の存在にまったく気がつかなかった。 その事実が、刃物となって胸に突き刺さる。もうその時点から、亜矢にとってのあいつの存在が、何なのかを思い知った。亜矢の恍惚とした表情から、紛れもない恋心が見えた。 ……認めたく、なかった。 もう十分だった。他の男に抱かれる亜矢は見たくない。この場から逃げ出してしまいたい。 そう頭では思うのに、見たことのない淫らな亜矢の姿に取り憑かれて、体は動かなくなっていた。 頬を紅くして、はしたなく歪む顔に、魅入ってしまう。 悔しいが、すべてを見ていたかった。 甘い声を漏らしながら生理的な涙を流す亜矢が、あまりにも綺麗だったから……。    * * * 亜矢が俺に気づいても、目の前で行為は続けられた。 見ないで、と泣いて訴えるその顔をじっと見つめた。あいつは俺に見せつけるように、亜矢を煽り、激しく抱いた。 「やっ……ア……あぁ……」 静かな部屋にはただ、ベッドの軋む音と生々しく肌がぶつかる音。そして、甘く切ない喘ぎ声だけが響いていた。亜矢の顔にはもはや、理性など欠片も残ってはいない。 こんな屈辱的な状況でも流石に男の性はとめられなかった。怒りや羞恥をも忘れて、自分自身の欲に手を掛けた。 そんな俺を見て、あいつの口元が緩む。一ノ瀬の企てに陥ってしまった自分が憎い。だが躊躇している余裕は無かった。 亜矢の艶かしい姿と、その甘い吐息だけに集中する。その瞬間、まるで映像を見ているかのように、完璧に二つの世界に分かれてしまった。 「っゆ……づきさ……んっ……あ……」 「亜矢……気持ち良い?」 「んっ……いい……っふぅ……く」 次から次に漏れる嬌声が耳に纏わりつく。 「……大好きです……結月さんっ……」 縋るように一ノ瀬の首に手を回し、囁くように言ったその言葉に愕然とする。 これまで、会話の中の冗談であっても、情事中の睦言であっても、決して俺のことを「好き」とは言ってくれなかった。それはしょうが無いと思っていた。 今、気付かされた。何故、軽々しく口にしなかったのか。 それはすべて、あいつの為の言葉だったから……―― 「っ……あ、や……亜矢ッ……」 浅い呼吸と一緒に、自分の口からついて出る名前。 聞こえるはずもないというのに。こんなにも無意味なのに。 「だ……めっ、結月さ……そこ……やぁっ」 「……こうされるのが好きなんだろ?」 「っヤぁ……あっ……だ、め……!またイッちゃ……」 悲鳴に似た悦がる声。 やめてくれ、お願いだからそんな声で啼くな……。 扱く手のスピードを上げる。 はやく、はやく開放されたい。 この忌まわしい感情も、亜矢への想いも、全部吐き出せたなら……――

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