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第3章 戒め 05※※

《perspective:亜矢》 “とんだ淫乱だな” 暗黒の中に放り出される感覚。 ――聞きたくなかった。彼の口から、その言葉だけは…… 卑猥な台詞、嘲笑う声、体に纏わりつく無数の手。 そして自分の乱れた姿……。 フラッシュバックするその記憶が、傷口を(えぐ)るようにじくじくと痛めつける。 認めたくなかった。今この状況が現実であることを。 長い指がゆっくりと出し入れされ、そのたびに花芯を突く。ただその一点だけを攻められ、体の奥底から熱が迫り上がってくる。薬の効果は完全に切れていないのか、敏感になっている体にはあまりにも強すぎる刺激だった。 突然、口の中にゆるりと指が入ってきた。 頬の内側や上顎を擦るように、口内でそれがうごめいたあと、舌を軽く押さえられる。 「っう、ん……ふっ……」 暗闇の中、すべてを犯されていく――この感覚、知っている。 忘れていた過去の恐怖が体中を取り巻く。 それでも、カラダは悦を求める。 先走りの粘液が自分の腹を汚していくのが分かる。 あの人にあれほどされたというのに、こんなにも貪欲な自分が憎い。 「や、やだっ……ッア……ぁあ……っ!!」 自分の意志とは裏腹に、ドクンと欲が解放された。 荒い呼吸を整えていると、はぁ、と小さく息を吐く音がする。 「こんな状況でも()くのか?……未だに酷くされないと満足できないのか?」 冷たい声で吐き捨てられた言葉に、心も体も凍りつくのに、それでもなお、再びもたらされる刺激に、身を捩ることしかできなかった。 突如、自身の根元に妙な感触を覚える。質量を増すにつれて、ギチッと縛られるような感覚がした。 「や、ぁ!何、で……!」 「何で、ってこれはお仕置きなんだよ。簡単に達するなんて許さない」 熱がせき止められ中心に溜まってゆく。解放されはしないのに、再び強く花芯を押された。 「っヒ……あぁ……ぅ……」 腫れたような痛みが出てくる。手も縛られた状態ではどうすることもできず、シーツの上を足先で藻掻いて、感覚を受け流すしかない。 「怖い……も、う……やめてっ……!」 沈黙。 「ゆる……して……」 涙が頬を滑り落ちた。 無情にも熱を待っている冷たい心を、まるで溶かすような、熱い雫。 ――彼は“お仕置き”だと言った。そうだ、これは調教だ。 悪いことをした僕を戒めて、再び愛してくれる為の。 今までも、恥ずかしいこと、たくさんしたじゃないか。 終わったら、きっと抱き寄せてくれる。 「意地悪してごめん」って、哀しげに笑って、何度も優しくキスしてくれる……。 「結月さん……」 薄れていく意識の中、僕は願った。 どうか。どうか目覚めたときには、いつもの結月さんが、隣に居てくれますように……。

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