60 / 126
第3章 戒め 05※※
《perspective:亜矢》
“とんだ淫乱だな”
暗黒の中に放り出される感覚。
――聞きたくなかった。彼の口から、その言葉だけは……
卑猥な台詞、嘲笑う声、体に纏わりつく無数の手。
そして自分の乱れた姿……。
フラッシュバックするその記憶が、傷口を抉 るようにじくじくと痛めつける。
認めたくなかった。今この状況が現実であることを。
長い指がゆっくりと出し入れされ、そのたびに花芯を突く。ただその一点だけを攻められ、体の奥底から熱が迫り上がってくる。薬の効果は完全に切れていないのか、敏感になっている体にはあまりにも強すぎる刺激だった。
突然、口の中にゆるりと指が入ってきた。
頬の内側や上顎を擦るように、口内でそれがうごめいたあと、舌を軽く押さえられる。
「っう、ん……ふっ……」
暗闇の中、すべてを犯されていく――この感覚、知っている。
忘れていた過去の恐怖が体中を取り巻く。
それでも、カラダは悦を求める。
先走りの粘液が自分の腹を汚していくのが分かる。
あの人にあれほどされたというのに、こんなにも貪欲な自分が憎い。
「や、やだっ……ッア……ぁあ……っ!!」
自分の意志とは裏腹に、ドクンと欲が解放された。
荒い呼吸を整えていると、はぁ、と小さく息を吐く音がする。
「こんな状況でも達 くのか?……未だに酷くされないと満足できないのか?」
冷たい声で吐き捨てられた言葉に、心も体も凍りつくのに、それでもなお、再びもたらされる刺激に、身を捩ることしかできなかった。
突如、自身の根元に妙な感触を覚える。質量を増すにつれて、ギチッと縛られるような感覚がした。
「や、ぁ!何、で……!」
「何で、ってこれはお仕置きなんだよ。簡単に達するなんて許さない」
熱がせき止められ中心に溜まってゆく。解放されはしないのに、再び強く花芯を押された。
「っヒ……あぁ……ぅ……」
腫れたような痛みが出てくる。手も縛られた状態ではどうすることもできず、シーツの上を足先で藻掻いて、感覚を受け流すしかない。
「怖い……も、う……やめてっ……!」
沈黙。
「ゆる……して……」
涙が頬を滑り落ちた。
無情にも熱を待っている冷たい心を、まるで溶かすような、熱い雫。
――彼は“お仕置き”だと言った。そうだ、これは調教だ。
悪いことをした僕を戒めて、再び愛してくれる為の。
今までも、恥ずかしいこと、たくさんしたじゃないか。
終わったら、きっと抱き寄せてくれる。
「意地悪してごめん」って、哀しげに笑って、何度も優しくキスしてくれる……。
「結月さん……」
薄れていく意識の中、僕は願った。
どうか。どうか目覚めたときには、いつもの結月さんが、隣に居てくれますように……。
ともだちにシェアしよう!