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第4章 再会 01
《perspective:結月》
あの夜のうちに、亜矢は姿を消した。
いつの間に手配したのか、翌日の昼には、宅配業者が梱包された荷物を引き取りに来た。
部屋から、亜矢の気配が一瞬にして無くなった。
それでも、思い出が染み込んだこの場所では、たとえ屋敷に戻るまでの短い期間であっても、独りで居ることは拷問のようだった。
これでもかというほど辱めて、残酷で卑劣な言葉を浴びせかけ、自ら関係を断ち切った。
そんな俺の元に戻ってくることは、絶対にないのだから。
マンションを出て数日経った頃、沙雪が屋敷へ俺を訪ねて来た。
亜矢はどこに居る、と焦ったように聞かれ、目も見ずに「知らない」と答えた。
「要らないと言った。あいつに」
「え……」
「良かったな。お前の思い通りになって」
俺を真っ直ぐ見つめているのが、気配で分かった。
「あいつ、お前を庇っていた。最後まで、お前のせいだとは言わなかった。一言も」
絶句する沙雪の顔を、最後に一瞥した。
人はこんなにも哀しい表情が出来るのだと、その時初めて知った。
こちらが何の感情も持てないほどに、その顔は失意で歪んでいたのだ。
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