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第4章 再会 08
――千尋兄 を、怖いと思ったのはいつからだったろうか。
母親と千尋兄は異母姉弟だ。彼は所謂、僕の叔父にあたるが、10歳しか歳が離れていない。
幼少期、3年ほど千尋兄が僕の家で暮らしていた時期があった。共働きの両親は多忙で、長い時間家を空けることが多く、彼は寂しがる僕を気遣ってか、そっけなくも傍に居てくれた。小学生の頃、同級生の男子たちに苛められていた時も助けてくれた。
優しくて、勉強もスポーツも出来過ぎなくらい優秀で、背が高くて格好良い千尋兄は、僕の憧れそのものだった。
中学2年生の時、6年ぶりに彼に再会した。以前は掛けていなかった細いフレームの眼鏡や、たくし上げた袖から伸びる太い腕、カップを持つ節くれ立った大きな手に、妙に大人の色気を感じて、ドキドキした。そしてそんな自分に戸惑った。
ある日を境に、千尋兄が僕に触るようになった。
僕は何が何だか分からなくて、ひたすら愛撫に従っていた。それでも、彼の体温や呼吸が自分のものになった気がして嬉しかったのを覚えている。
僕に触れるときの彼は、どこか遠くを見るような目をしていた。
僕はその顔が大嫌いだった。
そう、あれは確かに初恋だった。
千尋兄のことが大好きだった。
だからこそ、僕はその感情を忘れたのだ。
あの言葉を告げられた時から――
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