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第1章 契り 06
あの一件があった後、何故か調子が狂っていた。
亜矢は目を合わせてくれないし、視線が合ったとしても、直ぐに逸らしてしまう。
紅潮させた頬と、熱を帯びた瞳を見たとき、まさか、と思った。
嬉しいはずなのに、僅かに垣間見えるその恋心に、見て見ぬ振りをした。
「結月さん、今日は笠原嬢が見えられる日ですよ。くれぐれも粗相のないように……」
「はい……解っています、お祖母様」
朝食時、祖母の話をぼんやりと聞いていた。毎回のことだ。
祖母はいつも、笠原家の機嫌を損なわないようにする事に必死だ。
不動産デベロッパー、製薬など複数の事業を有する一ノ瀬グループは、近い将来、笠原商事と経営統合する予定だ。老舗の笠原商事とは前々から繋がりを持ちたかったらしく、令嬢との婚約は、俺を利用してのことだった。
俺は波風立てぬよう両家を渡り歩かなければならない。その為には、どんなに気が進まない事であろうとも、こなさなければいけない。
俺に拒否権はないのだから……。
「神霜。亜矢を俺の部屋……いや、二階に近づかせないでくれ。……頼むぞ」
笠原嬢を自室に連れて行く時、近くにいた神霜に耳打ちすると、哀れみの目を向けられた。
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