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第1章 契り 13

先にお風呂に入った僕は、いつものように寝室で結月さんが来るのを待っていた。 今さっきの映画の余韻が残っている。ベタなラブストーリーだったけれど、とても美しくて、幸せな気持ちになった。 僕は火照った体を預けるようにベッドに横たわった。 結月さんの匂いを微かに感じて、ギュッと胸を掴まれるほどの愛おしさが溢れてくる。 シーツを握り締めて、僕は目を瞑った。 ――大好きだ、結月さんが。 寂しそうな顔させるの、もう嫌だよ……。 カチャリとドアの開く音がして、ハッと目を開ける。 「どうした、待っていてくれたのか? 先に寝ていてよかったのに」 結月さんが穏やかな表情で僕の顔を覗き込みながらベッドの縁に座った。 「もう遅いな。寝ようか」と、ポンポンと軽く頭を撫でられる。 「ねえ、結月さん……」 「うん?」 調光を落とした彼がこちらを向いた瞬間、両肩に手をのせて思いきり力を込めて押した。不意打ちだからか、体格差があっても、その身体は簡単にベッドの上に沈んだ。 勢いのあまり、彼の胸に倒れ込む形になってしまった僕は、直ぐに上体を起こした。 「亜、矢……?」 当惑の色を滲ませた瞳に見つめられる。僕はそれから視線を逸らし、彼の寝間着の下衣に手を掛けた。 「おい……亜矢ッ!」 下から聞こえる結月さんの声を無視して、引き締まった太腿の間に手を伸ばす。下着から出したソレに手を添えて間近で見た瞬間、思わず赤面した。 ゴクリと生唾を飲み込む。 ――やらなきゃ。気持ちよく、させなきゃ…… 意を決して口に含もうとしたその時、顎に軽く手を添えられて顔を離された。 「――なに、らしくないことしてるんだよ。亜矢」 「……っ!」 空気を含んだ低い声に、ビクリと肩が跳ねる。結月さんの顔にいつもの笑顔はなく、唇を真っ直ぐに引いて、じっと僕を見据えていた。 ――結月さん、怒ってる……。こんな、はしたないこと、したから…… 「っう……っごめん、なさい……っ」 自分でもよく解らない感情が溢れてきて、ぼろぼろと涙が零れた。 「っお、ねがいだからっ……僕のこと嫌いにならないで……!」 「……亜矢?」 「嫌だ……捨て、ないで、結月さんっ……」 唇を噛み締めて、嗚咽が漏れるのを必死に堪えた。 「どうしたんだよ。いきなり……」 「だってっ……!結月さんいっぱい我慢してるでしょ?僕がずっとっ――」 「亜矢」と諭すように優しく呼び掛けられ、そっと腕を引かれる。左胸に頬が付くほど、強く抱き締められ、温もりと、心地よい心臓の音が身体中に流れ込んできた。 「好きだよ」と、柔らかい声が上から降ってくる。 「……だから、もちろん、そうしたい気持ちはある。それでも、君を傷つけるのは本意じゃない」 「結月さん……」 「亜矢を大切にしたい。いつまでも待っているから、安心しなさい」 子供をあやす様に背中を撫でられながら、僕は泣くことしかできなかった。 こういう風に結月さんに優しくされるほど、罪悪感が渦を巻く。 「……ごめんなさい……っ」 ――僕は、こんなにも好きな人を、騙している…… 本当は結月さんの肌に触れたい。身体の奥まで、彼に愛してもらいたい。 それがどれほど幸せなことか、なんて、考えなくても解っている。 でも、知られるのが怖い。突き放されてしまうのが怖い……。 僕の本当の姿、絶対に知られたくない……――

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