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第4章 再会 12

その夜、俺はリビングのソファで眠った。 翌朝、水の流れる音で目を覚ますと、キッチンに向かう亜矢の姿が目に入った。 「おはよう、亜矢」 後ろ姿に声をかける。顔は見えなかったが、細い肩が揺れたその様子から、明らかにこちらを警戒しているようだった。 昨夜、勝手に行為を中断させたのだ。どういう制裁が下るのか。亜矢はきっとそれを恐れている。 以前は、俺を拒んだことすら、なかったのだから。 「亜矢」 もう一度呼んでみる。今度は強く、振り向かざるを得ないくらいに。 亜矢は返事はせず、コーヒーの香りが立ち上るマグカップを両手に持ち、伏し目がちにこちらへ歩いてきた。 無言でカップが差し出される。それを受け取ると、亜矢はソファの向かいにあるダイニングテーブルの椅子に座った。 目を合わせることもなくそれを飲む亜矢を眺めながら、カップに口をつける。 一口飲んでハッとした。 馴染みのある、まろやかな口当たり。俺好みのドリップの濃さやミルクの分量を完璧に覚えている。ぎこちない手つきでコーヒーを淹れていた、制服姿の亜矢を思い出した。 互いに何も話さず、時間が過ぎる。 亜矢が席を立ったのを気配で感じ、俺は顔を上げた。それと同時に、感情の読めない瞳をスッと向けられる。亜矢は黙って俺を見つめたまま、ゆっくりと傍に寄った。 「亜……」 口を開きかけた瞬間、頬に柔らかいものが当たる。 それが唇だと気づいた時には、亜矢は「いってきます」と小さく言い、リビングの扉へ向かって歩き出していた。 咄嗟に立ち上がって大股に近づき、その背中を抱き締める。ちらと目に入った左耳には、あのピアスはもう無かった。 「やっぱり、お前は……」 亜矢は何も言わず、煩わしげに腕を解き、家を出た。 俺を拒絶したと思ったら、その昔強要したことを、当たり前のようにやる。 あいつの真意はよく解らないが、昨夜の衝撃で消えかけていた、狂おしいほどの愛しさが再び心を満たしてゆく。 4年前、最後に亜矢に伝えた言葉は、まるでそれが義務であるかのように、心の中に在り続けた。 ――亜矢は、俺のところに戻ってくるんだ。どんなことがあっても、必ず、最後には…… もう決して手放したりはしない。 のように、生温い愛し方だけは絶対にしない……

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