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第4章 再会 14
セミダブルのベッドでいつものように身を寄せる。
枕元の間接照明だけをつけて、上体を起こしたまま文庫本の小説を読んでいる俺を、亜矢は寝そべりながらじっと見つめていた。普段は直ぐに眠りにつくのに、珍しい。
「千尋兄、どうして煙草吸わないの?」
「なんで」
「……吸い殻、捨ててあったから。千尋兄がうちに来た日」
あの夜、苛立ちを抑えるために吸ったもののことだろう。
元々、愛煙家というわけでもなく、シカゴ に行ったばかりの頃、慣れない環境に対するストレスのはけ口として吸い始め、嗜む程度だった。学生時代、ずっとスポーツをやっていた身としては、なんとも不摂生な気がして性に合わない、と思ってはいたが、亜矢に会うことを決めた時にようやく禁煙を決意した。だから、此処で吸ったのはあれ一度きりだったのだ。
「我慢してるなら、いいよ。外でなら、大丈夫」
その声色は穏やかで、仕方なし、というわけでもない表情だった。
「嫌がると思ったから。匂い」
「え……」
「あ、“匂いも”、か」
亜矢のふっくらとした下唇を、親指の腹で擦る。
「お前、子供舌だからな」
ふ、と小さく笑って、再び本に目を落とした。
静かな時間が流れる。
不意に、首筋にさらりと滑らかな髪が触れた。サスペンスホラー小説に没頭していた俺は、心底驚いた。
柔らかな頬が肩口に擦り寄せられたかと思うと、腹の方からスウェットの上着の中に手が入ってくる。
もう寝ていると思っていた。
それよりも、この甘え方は……。
「何だよ」
本から顔を離すと、ほんのりと温かな唇が重ねられた。
「……抱いて。千尋兄の好きにしていいから」
その甘い言葉とは真逆の、虚ろな目を俺に向ける。
「お前、何を考えてる。さっき俺があんなこと言ったから、じゃないよな」
感情のない瞳を見つめ返してそう言うと、亜矢は眉尻を下げ体を離した。
「俺と寝たら、忘れられると思ってんの? 前の男を」
俺の低い声にビクリと肩が跳ねる。それを見て軽く舌打ちした。
「簡単に利用されてたまるか」
乱暴に布団の中に入り、亜矢に背を向けた。憤りを鎮めるように目を瞑る。一瞬、期待した。以前の感情が戻ってきているのではないかと。
その夜、夢に出てきたのか、寝ぼけてなのか、あの男がそこにいると勘違いしたのだろう。“ユヅキさん”と呟き、隣で眠る俺の背中にギュッと抱きついてきた。そしてグズグズと泣いた。
この2ヶ月、いくら俺に従順な素振りを見せたところで、実際は何も変わってはいなかった。
あいつの脳内はあの男のことでいっぱいだったのだ。憎らしいほどに。
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