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第4章 再会 18

「……亜矢との関係は?」 誰も居ないロビーに出て、開口一番そう問い質した。一ノ瀬は俺を睨むように見つめていたが、その瞳には困惑の色が見えた。 「婚約しているというわりにはずいぶんな表情(かお)しやがって……言えよ、一ノ瀬っ!」 押し黙る一ノ瀬に苛々して声を荒らげる。 「何故、お前に言わなければならないんだ。大体、蓮見こそ、どうして――」 「早く言え」 そいつは小さく息を吐いたあと、ようやく口を開いた。 「……半年前まで一緒に暮らしていた」 「期間は?」 「約2年……」 「亜矢と付き合っていたのか」 「……ああ」 目も合わさず、空気を含んだ声で俺の問いに答える。 ――どうして。何でよりによって、こいつなんだ…… 「あいつと別れて、直ぐにお前は他の女と婚約か?……結構な御身分だな」 湧き上がる憤りを抑えられず、性急に一ノ瀬の胸倉を掴んで壁に押し付け、唸るように吐き捨てた。 あの夜、亜矢が俺を求めたときの顔が脳裏に焼き付いていた。その瞳が言っていた。「早く忘れさせて」と。 「――あいつは、まだ……っ」 咄嗟に口を噤み、掴んでいた手を乱暴に離す。 「俺は、お前のことが大嫌いだ。昔から」 体勢を崩した一ノ瀬の頭上から落とすように、強く口に出した。 「勝手に自己完結して、被害者ヅラして、一生何も変えられない、みたいな諦めた態度が。  近くにお前のことを想っている人間が居るのに、その真意まで分かろうともしない。……どうせ、亜矢のことも、そうだったんだろ?」 僅かに肩が揺れたかと思うと、そいつは静かに顔を上げた。空虚な瞳が俺を捉え、ゆっくりと薄い唇が動く。 「そうだ……自分から壊した。  本当に、愛して、いたのに……“人形”、だなんて……」 呟くように発したその言葉に耳を疑った。 「言ったのか?!お前っ……あいつに!亜矢にっ!」 下を向いて絶句する。 ――ありえない。それではあまりにも、亜矢が……。 「……お前が知りたがっていたようだから、最後に教えておこうか」 長い沈黙の後、俺は冷めた目を一ノ瀬に投げかけた。 「俺には年の離れた姉貴がいるんだ。まぁ血の繋がりはないんだが。早くに結婚したから、もう20歳(ハタチ)の一人息子がいる。  ――姉貴の現姓は、“宮白”」 はっきりと、強調する。 すると今まで情けないくらいに打ちひしがれていた一ノ瀬の目が鋭く光った。 「蓮見……」 ――この反応をするということは。 「亜矢の初めての相手、知っているんだろ? そいつに何をされたのかも……。あのカラダを仕立て上げたのが」 そこで一呼吸置いて、俺は自嘲するように嗤った。 「俺だと言ったら?」 信じられないという様に凍りついたその端正な顔を、うなじに手を添えて思いきり引き寄せる。 「俺にそうさせたのは……お前だよ。一ノ瀬」

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