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第5章 真実 07
「で、“誰かの近くに居るのが珍しい”って、何だ?そんなに気難しい奴なのか?」
「俺、そいつと高校一緒だったんだよ。学修館」
「へえ、お前小学からお受験だったの?意外だ」
「いや、俺は高等科だけ。初等科から入ってた奴に聞いたことあってさ、一ノ瀬のこと。
初等科ってまぁそれなりの家柄の子供が多くて、既に擦れてる奴もいたみたいなんだけど、その中でもあいつは異質だったって。どこか浮世離れしていて、歳よりもだいぶ達観しているような物言いで」
それは何となく分かる、と心の中で相槌を打つ。
私生活がまったく想像出来ないし、あの落ち着き払った態度はそこらの大学生とは違う、といつも感じていた。
「まー変な奴なんだが、別に威張っているとか、卑屈だってわけでもないみたいで。大企業の社長子息だし、目立つ容姿だから、男女問わず仲良くなりたかった人間は多かったらしい。
で、同級生の中にかなり詮索してくる奴がいたみたいでさ。そいつのせいか、ある日を境に休み時間は一人で消えるようになって。行き帰りは決まってスーツ姿の男が運転する車に乗っていたし、結果的に、同級生たちが声をかける隙もなかったと。
あの避け方はだいぶ異常だったらしい。まるで友達なんか要りません、とでも言うようにさ。それは高等科でも変わらなかったなぁ」
何となく、他人に興味がなさそうに見えたのは、この生い立ちのせいか。
異常な避け方?それは本人の意思なのか?それとも、誰かからの圧力……?
「こんな時代なのに、めっちゃでかい屋敷にたくさん使用人囲っててさ。習い事も勉強も、その分野の人間呼んで家でさせて。まるで外との接点をすべて切っているみたいだと噂されてたよ」
「何だよ、それ」と思わす声が出る。
その屋敷の中で全部済ませているということか?何の為か知らないが、もしそれが本当だったら、ゾッとする話だ。
「なんつーか、親が大事に育ててんのか知らんけど、あいつ可哀想だよな、と思って。青春らしいこと、させてもらえなくて」
込山が少し憐れむような表情で、グラスの中の氷をカラカラと回した。
「そうだ。千尋、合コンに誘ってやれば?」
良いアイデアだろと言わんばかりの顔を向けて言うのを、「全部あいつが持っていくだろうから、ヤダ」と軽く流す。
あの男のことを一気に知って、ソワソワと、何故か心が落ち着かなかった。この情報量をどう処理しようかと、暫く黙ってグラスに口をつけた。
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