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第5章 真実 14※

ザー……とシャワーの湯がタイルを叩く音が響き、僅かな範囲しか見えない程、熱い湯気が風呂場全体を包んでいる。 体の隅々まで綺麗にした亜矢をバスタブの縁に座らせ、強張った細くて白い両脚を割り開く。情欲を唆るその中心に、俺は顔を埋めた。 最初こそ「恥ずかしい」と言って口淫を嫌がっていた亜矢だったが、今では俺の髪に優しく指を絡め、素直に快感に身を委ねている。 「はすみ」と呼ぶことを忘れずに。 手の中のモノは既に質量を増し、真っ赤に腫れた頂点から透明な雫が次から次に零れ落ちていた。それを舌先を使って丁寧に舐め取ると、鼻にかかったような声が上がる。 「馬鹿、声抑えろ」 「……は、い……」 まだ少しの刺激しか与えてはいないのに、亜矢の目元は赤らんで瞳には涙が溜まっていた。両手で口を覆ったのを確認して、行為を再開する。 顔を見ないで済む口淫は、亜矢に触れる時間の中で唯一、虚無感に襲われない行為だと知って以来、毎回のように戯れに興じる。 それは結果として、妄想の過激さに拍車をかけた。 今日もまた、容易く描けるようになった“偽の一ノ瀬”を脳内に呼び起こす。 ――あいつは力いっぱい俺を睨んでくる。抵抗する言葉はなく、懇願にも似た鋭い視線を俺に浴びせかけるだろう。 長い足を交差し、庇うように固く閉じられたその中心を強引に暴くと、強気な瞳が一瞬にして大量の涙を生み出す。 獣のように恥部を味わう男の髪を抗うように掻き混ぜ、喉を反らし、掠れた声で喘ぐのだ―― 色素の薄いソレを、上から下まで銜え込み、割れ目の筋に舌を這わす。 空いた手の指先でキュッと胸の突起を摘めば、口の中でピクピクと動くのが分かった。 「はぁ……ん、ふ……」 亜矢は、ダイレクトな快楽が押し寄せないもどかしさと、体に纏わりつく熱気の苦しさに、肌を上気させてはふはふと息をしていた。 申し訳程度に腰が揺れたのを合図に、一気に吸う力を強め、扱くスピードを速める。 「ひぁ、ん……んんっ」 口を覆う指の隙間から、悲鳴に似た高い声を含んだ吐息が漏れ始めた。内股にギュッと力が入り、くしゃりと髪を掻き回され、限界が近いことを知る。 「っ……もう……や、ぁ……」 「やめる?」 「んっ……だ、めっ……」 「どっち」 「っあ、ん、――っ!!」 口の中に吐き出された欲を嚥下していると、ふと頬に濡れた手が添えられた。 促されるように顔を上げた瞬間、背筋に電流が走った。 濡れた髪を頬に貼りつかせ、荒く胸を上下させたまま悩ましげな瞳で俺を見下ろす姿は、やけに大人びていて、まるで煽るように艶やかだった。 「はすみ」と呼ぶ掠れた声に誘われるまま、ゆっくりと顔を近づける。 紅い唇に触れる(すんで)のところで、我に返った。 「先にあがる」 勢いよく顔を背け、風呂場から出た。出るなり洗面台に行き冷水を頭からかぶる。 まずい、と一瞬にして思った。本気で一ノ瀬と錯覚しそうになった自分に慄然とする。 ――いつの間にあんな顔をするようになったんだ…… このままでは、もっとこの手で一ノ瀬を辱める妄想をしてしまう。今までのような悪戯に似た行為だけでは済まなくなる。 ギュッと拳を握り、鏡の中の自分を見つめた。冷水に混ざって変な汗がだらだらと流れ落ちてくる。 いつか自制が利かなくなってしまうのだろうか。 一体、いつ……。 「千尋~、あがったのぉ?あんまり長風呂だから心配するじゃない」 間延びした姉の声に、素早く下だけを着替え、何事もなかったかのようにガラスドアの向こうに声をかける。 「姉さんが呼んでる。早くあがれ」 こいつが風呂から出る前に帰らなければ。 今の状態では、とてもじゃないが亜矢の顔をまともに見ることなどできない。 上着を羽織りながら真っ直ぐに玄関へ向かうと、夕飯の支度を終えた姉に呼び止められた。食事を促されるのを軽く流す。 「姉さん、暫く亜矢の面倒見れないから」 仕事が忙しくてさ、と早口に言って、俺は家を出た。

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