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第5章 真実 22

それから俺は、度々亜矢と寝るようになった。 自分の奥底に眠っていた加虐的嗜好のせいなのか、それとも今更優しく出来ないと自棄(やけ)になっていた為なのか。とにかく情事とは決して言い難い、身勝手な行為だった。 亜矢はそれを拒否することなく、好き勝手に愛撫する手を、ただ受け入れた。 『人形』という言葉を、どう捉えたのか解らない。唯ひとつ言えるのは、その行為に愛がないことを、亜矢は知っている。 それを知りながらも、きっと俺から離れることができなかったのだろう。 その証拠に、俺が指示したことはどんなことでも必ずやる。コーヒーの淹れ方から、行為中の戯れまで。 一度、冗談交じりに強要した、行為前後の頬へのキスも、それが義務であるかのように毎回欠かさなかった。これから自分を乱暴に抱こうとしている男に対して、そして心身をぐしゃぐしゃにいたぶった男に対して、そんな甘い事をするなど普通ではありえない。余程のマゾ体質でなければ。 頬に唇を寄せた後、俺に向ける瞳にはまだ微かに熱が宿っていた。 所詮、簡単に想いを消すことなど出来ないのだ。 この俺と同じように。 亜矢が高校に進学し、そこが一ノ瀬の母校であることを知った時、真新しい制服を着せたまま行為をした。色欲に乱れた亜矢の姿を前にして、一ノ瀬の幻像を見ることは無かった。 そのことに、どこかほっとしている自分が居た。 そして、その日から「はすみ」と呼ばせることはなくなった。

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