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第5章 真実 23

結局、カラダを強引に奪ったあの日から1年近くが経っても、「好き」という言葉すら与えることなく、亜矢を縛り付けたままだった。 キスは性的な快感を感受するだけのもの。そして前戯もそこそこに、自分の欲望をぶつけた。それでも、行為の度に、亜矢のカラダは、まるで俺自身に馴染むかのように変わっていった。 とうとう、中心を弄らずとも後ろだけで達するようになり、荒く抱いても与えられる快楽に従順で、誘うように甘い声を出し、濡れた瞳を向けるのだ。 それを見て、次第に怖くなった。亜矢が、ではない。あんなにも純真だった子供をこの手で穢していることに、性の概念までも変えてしまっていることに、今更ながら自分自身が怖くなったのだ。 シカゴ支部への異動が決まった日、俺は亜矢をいつも以上に激しく抱いた。 全身を揺さぶられ悦楽に浮かされた亜矢が、珍しく俺の背中に手を回してきた。それを抱き締め返すこともせず、乱暴に唇を重ねながら対面から反転させ、自分が果てるまで後ろから容赦なく突いた。 最後まで、恋人紛いの行為を一切しない俺のことを、亜矢はどう思っていたのだろう。 「暫く日本には戻らない」 シャワーを浴びて衣服に身を包みながら、ベッドに横たわったままの亜矢にそう告げた。 修士過程あがりの入所2年目の身ながら、重大な任を託された嬉しさよりも、亜矢から離れることができることに、先ず安堵したのは何故だろう。 あの日、亜矢は俺のことを好きだと言った。 しかしそれは単に、幼心の「好き」を拗らせただけのものなのだ。一人の男の手によって未知の快楽を仕込まれた為に、それが恋心なのだと勘違いをしてしまっただけの偽り。 それを説くこともなく、本当の恋を教えることもなく、穢したことの罪は重い。 それを償うには、一生をかけて、亜矢を愛してやることしか方法がないのかもしれない。 だが、今の自分では、償うどころか壊してしまう。 情はあっても、それは“愛情”ではないのだから。 だから、再び会うときには―― 「俺はお前を愛してはいない。お前ももう、気づいてるだろ?」 無言で俺を見つめる榛色の瞳に、光はなかった。 「これからお前が、どんな奴と寝ても構わないが」 柔らかな頬に手を添え、耳元で告げる。 「次また会うときは、全部、俺のものにする。……一生離さないから」 大きく見開かれた目から、静かに涙が溢れた。 その涙のわけは、恐怖か喜悦か。 “何年経とうが、亜矢は俺を忘れないに違いない”。 その言葉を自分自身に言い聞かせるように、4年の時を過ごした。初めに抱いていた悔悟の念は、次第に純粋な恋しさへと変わっていった。 背徳的な行為を繰り返して、手に入れたのは、このどうしようもなく歪んだ愛だったのだ。 第5章 終

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