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最終章 萌芽 12

フランス北東部、ドイツ国境に隣接する都市。 パリを経由して行き着いたそこは、中世期の雰囲気が色濃く残る、とても美しい街だった。 結月さんのお母さんが眠る地。 彼と、いつか一緒に行こうと約束した場所。    * * * ストラスブール。その地名を呟いた途端、一ノ瀬さんは驚愕の色を浮かべた瞳を僕に向けた。 「お母さんのお墓、そこに在るんですよね」 「……結月に聞いたのか?」 僕は静かに頷いて「お母さんのこと、全部教えてくれました」と続けると、「そうか、あの子が。君に」と何かを考えるように中空を見た。 「お墓の場所を、教えていただけませんか?……厚かましいとは自分でも解ってるんです。でもっ……」 「行くのか?ストラスブールに」 「はい」 彼はやや気まずそうに眉をひそめてから、徐に口を開いた。 「だが、既に向こうに彼女の親族は居ない。行っても、手掛かりと言えるところは墓地くらいで……。そもそも、結月が日本を出ていることすら、確証はないんだよ」 「――それでも、行きます」 自分に言い聞かせるように、自然とその言葉が口をついて出た。 「行きたいんです。少しでも、可能性があるのなら。そうじゃないと、もう……」 会えないかもしれない、一生。 それを考えるだけで、足先まで冷たくなるほどの怖さが押し寄せてくる。 「聞いていた通りだな」 その(まろ)やかな声に、下に向けた視線を元に戻すと、細まった聡明な瞳がこちらを見つめていた。 「本当に、真っ直ぐな子なんだね。結月が何故、君を必要としていたのか、解る気がするよ」 気づけば、温かい掌が僕の右手を包み込んでいた。 「――結月は、君に託そう」 緩やかに弧を描く唇や、心を落ち着かせる声は、愛しい人のものにとてもよく似ていた。

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