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第14-1話嫌な予感しかしない
◇ ◇ ◇
「お客さんたち、今から北の森に行くのかい? やめといたほうがいいぞ。あそこは魔物が巣食ってるぞ」
街を経つ前に宿の食堂で朝食を摂っている時、鼻下に髭を蓄えた店主がエルジュたちに「どこへ行くんだい?」と尋ねてきた。人当たりの良いエルジュが愛想よく「北の森へ行くんだ」と答えると、店主は顔をしかめ、小首を振りながら忠告してくれた。
普通なら魔物がいると聞いて青ざめるのだろうが、エルジュはむしろ瞳を嬉々として輝かせた。
「ホント? ねえ、どんな魔物がいるか知ってる?」
「他のお客さんから聞いた話だが、本体は分からないが、木々の至る所にタコみたいな触手が絡んでいて、人が通りかかったら音もなく近づいて――ぎゅるんっ、と巻き付いて森の奥へ引きずり込んでしまうそうだ。そうなった者は二度と森から出られないらしい」
焼き立てのパンを千切って食しながらグリオスは話に耳を傾ける。
北の森は魔王の根城へ向かうための最短の道。迂回すればかなりの日数を要する。
日にちをかければかけるほど、魔物と遭遇する機会が増える。そうなればエルジュが見え透いた魔物のワナにかかりたがり、自分が辱めを受けることになる。
強い魔物と戦うより、弱い魔物と連戦を重ねるほうがグリオスにはしんどかった。
それにエルジュの強さは天井知らず。どれだけの強敵でも、彼の前では最弱のスライムと大差はない。
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