36 / 100

第16-2話いつもと違うエルジュ

 森の中ほどまで歩いた頃。 「もっと襲ってくるものだと思ってたけれど、なかなか来ないねー。さっきの一撃で怖がらせちゃったかな?」  おもむろに辺りを見渡しながらエルジュに話しかけられ、グリオスは一考する。 「確かに……。こうまで動きがないと不気味だが、力量の差を感じて手を引いたのかもしれない。だが、そうだとすれば力量を測れる知能がある相手ということにもなる。もしかすると、ワナに嵌めようとしてくるかもしれない……はっ」  独り言のように呟いてからグリオスは気づいてしまう。  わざわざ我慢しているエルジュの前で、『ワナ』なんて言葉を口にしたら――。 「だとしたら楽しみだなあ! どんな風に仕掛けてくるかな? 一斉に触手が上から落ちてきて、総力戦でオレたちを捕えてぬめぬめにしてくれるとか? 全身に這う触手、謎の体液、無限の快楽責め……ああ……っ」  あっという間にエルジュは表情を輝かせ、虚空を仰いで手を胸元で組みながら妄想を語る。夢見心地の美しい顔は、今にも犯して下さいと誘っているようにしか見えない。  迂闊なことを言って寝た子を起こしてしまった自分にグリオスが後悔していると、視界に入る森の暗い部分のすべてが蠢いた気がした。

ともだちにシェアしよう!