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第17-1話足元を見れば

「気をつけろ、エルジュ! 何かいるぞ!」  頭で考えるより先にグリオスは声を放ち、エルジュを庇おうと蠢くものたちの前に立ちはだかる。  淫靡な世界に意識が旅立ってしまったエルジュに、攻撃の動きは一切なかった。  そしてポツリと呟く声をグリオスは聞き逃さなかった。 「んー……やっぱりガマンできないなあ」  いつも通り、淫らな世界に囚われた気配。グリオスの背筋に悪寒が走る。 「正気に戻れ! 来るぞ――」  顔を蠢くものたちから背けずにグリオスは叫ぶ。  しかし次の瞬間――ぐにゃり。地面がぬかるんだ。 「……っ、ま、まさか……」  チラリとグリオスは視線を落とす。  道だと思って歩き続けていたものが足元で波打っている。  巨大な触手なのだと分かった時には、もう遅かった。  地響きとともに二人の体が揺さ振られたかと思えば、足の裏から一切の感覚がなくなる。  真下を見ればいつの間にかとぐろを巻いた触手の渦が広がり、中心へ吸い込まれるように落ちていくのが分かった。 「く……ッ、エルジュだけは……!」  グリオスはエルジュの体を抱えると、体を捻り、勢いをつけて手近な木の上へ投げ飛ばす。そうして自身はより速く触手の渦へと向かっていく。

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