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第23-2話夢の浸食者

 凛々しい顔立ちの優男だった。  腰まで伸ばされた紫がかった髪は見事な巻き毛だった。切れ長の涼やかな目に宿した瞳も紫で、緩やかに微笑む顔は色香に溢れていた。  背は高く、長身からすらりと伸びた四肢も、服の上からでも分かる引き締まった体もたくましい胸も、どんな女性も虜にしそうな蠱惑の気配を漂わせていた。  ――いや、虜にされるのは女性だけではない。  彼の妖しい眼差しを受け止めてしまうと、男性であっても胸が甘くざわつく。  魔物を知らぬ市井の者なら、もう彼に心を奪われ、何をされても悦びを覚えてしまうだろう。  しかしグリオスは体のざわつきを覚えながらも心を引き締め、彼を睨みつける。  男は背に大きな蝙蝠のような翼を生やし、腰から黒い紐のようなものを伸ばし、その先端に矢尻のようなものを付けていた。ピコ、ピコ、と揺れるそれは、どこか上機嫌そうに見えた。  淫らな夢に、人を惑わす容姿の人外。  彼の正体に気づいてグリオスは顔をしかめた。 「インキュバスか……淫靡な夢を見せて俺を誘惑しているつもりか? 生憎だがこんなものを見せられても腹が立つだけで、欲情すら覚えないからな」  吐き捨てるように告げたグリオスへ、インキュバスは肩をすくめる。 「誘惑? わざわざ他の男に抱かれている夢を見せたところで、俺にはなんの恩恵もないんだがなあ。俺は単に、違うものを見たいと思って夢を変えただけ。これはお前が心の底で望んで見ている夢だ」  真っ直ぐに見据えながらインキュバスが断言してくる。  弾かれたようにグリオスは首を振り、剣を抜こうと腰に手を運ぶ。  ――だが夢の中では剣を挿しておらず、グリオスの指は虚空を掻くだけだった。

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