53 / 100

第25-1話抗えぬ誘い

 クスクスと笑ったかと思えば、一瞬でインキュバスが間を詰め、グリオスの右手を掴む。  そして腰に手を回し、淑女と踊るかのような体勢をグリオスに強要し、鼻先がぶつかるほど間近な距離で囁いた。 「グリオス、取引をしないか? 俺はお前に巣食い続けている淫気が欲しい。俺に食べられることで魔性は抑えられ、勇者を魔に堕とす道連れにしなくても済む……どうだ?」  思わず息を呑んだグリオスの顎をクイッと指で上げ、インキュバスは強引に目を合わせてくる。  中性的な顔立ちのエルジュとは違う蠱惑的な眼差しを直視してしまい、グリオスは体に燃えるような熱と動悸を覚えてしまう。  今すぐ突き飛ばして離れたいのに、体が脱力して動かない。  安易に頷かないことだけが、グリオスの精一杯の抵抗だった。 「……その言葉を間に受けるなら、俺は魔に堕ちるということか」 「ああ、そうだ。お前も自覚しているだろ? 常人では耐えられぬ快楽を耐え、今も体が貪欲に交わりを求めて疼いていることを……お前はもう戻れぬ。遅かれ早かれ我らに身を捧げ、数多の魔物の精を欲しがり、新たな仲間を産むことになる」

ともだちにシェアしよう!