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第30-1話エルジュのほうがご立腹
しばらく頭を抱えて悶絶した後。グリオスは小さな声を捻り出す。
「……二度とやらないでくれ。ああいう抱き方は」
「ん? どういうこと?」
「あんなに好きだなんだと言いながらしないでくれ。調子が狂う。ただの介抱の一環で、余計なことは言わないでもらいたい」
グリオスが告げた瞬間、エルジュの気配が硬くなる。
部屋に無音が広がり――ギシッ。エルジュがグリオスに覆い被さり、顎を持ち上げて目を合わせてきた。
一切の軽さを捨てた凛とした真顔と強い眼差しに、グリオスは息を呑むしかなかった。
「グリオス……夢で何を見たか、覚えていないの?」
「ああ、何も」
「ふーん……じゃあ、なんで本音でオレと向き合ってくれないの? 何か引っかかることでもあるの?」
「……別に……」
思わずグリオスは目を逸らし、口を固く結ぶ。
心のままに言ってはいけない。
口に出せば取り返しのつかないことになる。そんな予感がグリオスを頑なにさせる。
エルジュが本気で向き合い、こちらの逃げの姿勢に怒りすら覚えていることを感じ取ったとしても――。
ふぅ、と小さく息をついてから、エルジュは顔を近づけてグリオスを覗き込む。
「ねえグリオス。約束してくれる? 魔王を倒したらオレにご褒美くれるって」
「……何をすればいいんだ?」
「オレに素直になって。ちゃんと向き合ってよ――そうしないと、いつまでも抱いて啼かせ続けるから」
言っていることは相変わらずだが、エルジュの顔は真剣なまま。
魔王を倒した後なら――。
グリオスがわずかに頷くと、エルジュは「約束だから」と唇を重ねた。
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