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第32-1話最小の労力で
頂にある魔王の城へ向かうためには、山を中ほどまで登り、洞窟から上へと向かうことになる――過去に似たような形状の魔物の住処を何度も攻略したことがあり、二人は場所を目視できれば、大体の構造が分かるようになっていた。
山のふもとで向かう先を見上げながら、エルジュが呟く。
「うーん……魔王の本拠地だから当然だけど、魔物の気配が多いねー。相手するの面倒くさそう」
「言っておくが、くれぐれもワナにかかろうとしないでくれ。事あるごとにワナにやられて、抱き潰されながら山を登るなんてことは勘弁して欲しいからな。何度それで心身がボロボロになったことか……」
「分かってるって。今はワナにかかってあげるよりも大切なことがあるから」
「ああ。しっかりと魔王を倒さないといけないからな」
「え、違うよ。そっちはおまけ。魔王なんかよりも、グリオスのことのほうが大切に決まってるでしょ」
……あからさまに好意をぶつけられても困る。
表向きは相変わらず軽い調子のエルジュ。しかし、今までよりも危うさを感じない。
ずっと羽毛のように風が吹けばフワフワと飛んでしまいそうだったものが、地に足をつけ、根付こうとしているような安定感がある。
嬉しい変化ではある。しかし目的が自分だと分かっているからこそ困ってしまう。
ずっと一緒にはいられないというのに――。
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