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第37-1話切実な声
――インキュバスから顔を逸らし、グリオスは上を仰ぐ。
耳を澄ませば、遙か遠い所から聞こえてくる声がした。
『グリオス……グリオス、しっかり……オレ以外のヤツなんか、受け入れないで――』
声を詰まらせながら必死に呼びかけてくるエルジュ。
なんてワガママなんだと思いながらも、グリオスの口元が緩んでしまう。
「……放っておけないか。俺がいてやらないと……」
ポツリと呟いた声を聞いて、インキュバスがチッと舌打ちする。
「思った以上に勇者への思慕が育っていたか。まあいい。このまま夢に閉じ込め続ければ、いずれは俺に屈する」
「本当にそれができるのか? 前にエルジュは俺を夢の世界から引き上げてくれた。原因が分かっているのに、何もしない男じゃない」
言いながらグリオスの中に希望が生まれてくる。
夢の中では長くここにいるように感じるが、エルジュの言葉を聞く限り、まだ現実の時間はそう経ってはいない。
だとすれば、粘り続ければ前のようにエルジュが現実に戻してくれる。
――前にも夢にインキュバスが入り込んでしまったことを思い出した今、ここから抜け出せるという希望を胸に耐え切ることができる。
グッと拳を握り、グリオスは何も見えない闇を見つめ続ける。
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