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19・初夜 ※R18
【初夜】
「なんか、ナギ怖い」
「え?」
ベッドの上で尻をこちらに向けながら、零は頬を膨らませた。スタンドライトの明かりに照らされた肌は少し汗ばんでいて、見ているだけでそわそわする。
「鼻息荒いんだよ」
「だって、こんな至近距離で」
目の前には零の秘部が晒され、窄まりが難なく中指と薬指を呑み込んでいく様を見せつけられる。ローションが粘りのある水音を立てるから、耳まで刺激されてしまう。
「痛くないの」
「ん、中の構造分かれば。やってみる?」
返事を迷っているうちに、片手を尻たぶの割れ目に導かれた。
「ちょっと下から……これくらいの角度で、そう。っん、ッぁ」
言われた通り収縮する穴に指先を押しつけると、はじめは強い反発を感じたものの、入ってしまえば指はみるみる沈んでいった。
「は、ぁ、っふ、爪、当たらないように」
「うん、」
とは言われてもどう動かせばいいのか分からない。零と正式に付き合った日から、男性同士の行為についてネットで調べはしたが、腸が傷ついて病気になるとか、肛門に入れたとしても抜けなくなるといった情報が沢山出てきて逆に不安が募った。緊張して額に汗が滲む。
控えめに指を抜き挿しするだけでも零はびくりと肩を震わせ、途切れた息を吐いた。煽るようなその様子に、股間がはち切れるほど膨らんで痛い。
「もっ、いい」
ふいに、指を引き抜かれた。少し寂しく思う僕の目の前で、零は追加したローションを指にまとわせ、一度に三本穴に突き入れる。
「うわぁ」
「スプラッタ映画観たみたいな反応すんな。ゴムつけた?」
「まだ」
いざ目の前にするとどうしていいか分からず、零に笑われながら手伝ってもらって、なんとかコンドームを装着し終えた。今から童貞を卒業するのだと思うと感慨深さと気恥ずかしさが同時に襲ってくる。
「じゃ、そこ仰向けになって」
「え、僕が?」
零が怪訝そうに眉を上げた。
「童貞くんが自力で男のケツに挿れられるとでも?」
確かに自信のかけらもない。大人しくベッドに仰向けになる。下半身に一糸も纏わぬ零が、僕のズボンと下着を取り払ってどっしりと跨ってきた。ローションに濡れた柔らかな尻が内腿の上でぬるぬると形を変える。いやらしすぎて鼻血が出そうだ。
「お前意外とデカいね……」
「本当?」
内心喜んだのが顔に出てしまったのか、不機嫌そうな顔をした零に陰茎を弾かれた。なんて酷い。
「重くない?」
「重いけど、気持ちい。レイ腰動いてる」
「さっさと挿れたくて、あーもう限界」
「え? 待っ、あっ!」
飢えた動物みたいな獰猛な目をして零は僕の陰茎を掴み、窄まりに押しつけて、ずぷずぷと先端を呑み込んでしまう。自分でするのとは比べものにならない、生々しい性の質感が、僕の欲を余すことなく舐めとっていくようだ。
「もうちょっと、なんか、あるんじゃ、キスとかッ、うぅっ!」
「ンッく、十分イチャついただろ。ぅぁ、キツ、」
苦しそうに眉を寄せ「おっ勃てすぎ」と文句を言いながらも、見下ろしてくる表情は蕩け、肌はしっとりと火照っていた。
「一応、中は洗ったから」
「え、手伝い、たかった、ッくぅ」
「はいはい、今度な……」
根本まですっかり咥えてしまうと零は満足したように深く息を吐き、上半身を倒して僕の頭を抱えこんだ。鼻腔が零の匂いで満たされ、どく、どくと血の流れる音がする。音に合わせて、彼の中の僕もぎゅうぎゅうと抱きしめられる。押しあげられた熱が顔に集まって頭が茹だる、呼吸が苦しく、
「レイ、ごめん出っ……!」
「え、」
とっさに零の背中に両腕を回してしがみつき、脚で腰を拘束した。絶対に逃げられないように。
「ナギっ、待てこれだめ、ッアっうぅ、ん、や、ぁああ……っ!」
「うぅうううッ、っぐぅうっ!」
気持ちがいいとか、射精したいとか、そんなことを考える余裕ももはやなかった。
ただ目の前の人間に子種を注ぎ、匂いをつけ、他所へ行くことを考えすらできないくらい頭も心もぐずぐずに溶かしきって、僕だけを感じてほしかった。
独占したかった。
瞼の内側が眩しくて目が覚めた。もう昼時だろうか、部屋の中はすでに明るい。
また眠っていたようだ。裸の下半身にはバスタオルが巻かれて、上から布団が被せられていた。寝ぼけた頭で記憶を辿り、実感が湧いた途端顔から火が出そうになる。
(そうだ。僕はレイと、)
「起きた?」
ベッドの縁に座った零が、振り向いて頭を撫でてくれた。目玉焼きが乗ったトーストをかじっている。
「ごめん、僕一回出してすぐ寝ちゃったっぽい」
「一回?」
怪訝そうに眉根が寄る。
「お前三回くらい出してただろ。覚えてないの」
「三回!?」
思わず跳ね起きた。確かにこの下半身のだるさは三回出したと言われても納得がいく。
「せ、責任はとります」
「責任とか、おっさんかよ」
軽快な零の笑い声とは裏腹に、罪悪感は膨らむばかりだ。
「どうだった、初体験」
「どうと言われても」
気づいたら陰茎を呑み込まれて、気づいたら果てていた印象しかない。でも触れ合った肌の温もりは、皮膚の上でまだ熱を残している。
「気持ちよかった。です」
零が目を細めた。火をつけたタバコを咥える横顔もどことなく機嫌が良さそうだ。
「レイはどうだった、ちゃんと気持ちよかった?」
「うん。童貞くんにしては頑張ったんじゃない」
「……へへ」
「なににやけてんだ。さっさと先に寝やがって」
「ごめんなひゃい」
引っ張られても頬は緩んだままだった。
求め合い、応え合ったことで、僕らは本当に恋人同士なんだと実感できて嬉しかった。
零を後ろから抱きしめ、またやろうねと囁くと、気が向いたらなと返事をした、彼の口元もまた緩んでいた。
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