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第2話

「お、伊吹が一人とかめずらし~」  大学のカフェテリア。  窓際の席で興味も大してないマンガをひたすら読み流している。  昼食はとっくに食べ終え、水を注いだグラスはすっかり汗をかいていて、きっと中身はもうぬるくなっている。  掛けられた声に視線を上げれば、同学部の友人がいた。 「高瀬……」 「相方はどうしたよ」  高瀬は当然のように向かいの席に腰を降ろして、手に持っていた紙パックのコーヒー牛乳を吸い上げる。 「大体いつも倉端と一緒じゃん」 「いつも一緒って訳じゃないよ……」  相方。そんな呼ばれ方をするくらい、馨とは一緒だった。  けれどあの夜から一週間。分かりやすく伊吹と馨の間には距離ができている。 「どした? 随分景気の悪い面してるな。可愛い顔が台無しだぞ」 「可愛い言うな」 「英文の南ちゃんが言ってた」 「誰だよ、英文の南ちゃんって」  知らねーの? ミスコンにも出てた子だぞ? と言われたが、残念ながら伊吹の記憶にヒットしなかった。多分直接的な関わりはない相手だろう。  ティロン、とスマホが着信を告げる。が、それはメルマガの配信だった。  高瀬の話を適当に聞き流しながら、伊吹はメルマガは無視して馨とのメッセージ画面を開く。  一週間前にやりとりしたのが最後。以降、連絡はない。伊吹もしていない。  二人のトーク画面がここまで停滞するのは知り合ってから初めてのことだった。 “ごめん、驚かせたよな”  あの夜、馨からメッセージが届いた。 “言い出せなくて悪かった”  別に馨が謝ることなどないのに。そう思っていたら、続けてメッセージが入った。 “でも安心してくれ。伊吹のことをそういう目で見たことはないから。伊吹はちゃんとオレの親友だから” “伊吹が大丈夫なら、これからも友達続けてほしい”  そのメッセージを読んだ瞬間、伊吹の胸の内がひどくうねった。処理できない感情が溢れそうになって、でも必死にそれを抑えて、当たり障りのない言葉を選んだ。 “こっちこそごめん、びっくりしてあんな態度取っちゃって” “でも、大丈夫だから”  大丈夫だからって何が? 何で? こっちが決めることか?  自分の言葉にツッコミを入れながら、それでも明日からは普通にやっていこうとそう決意して。  でも次の日顔を合わせたら、伊吹と馨はもう今まで通りではなかった。  ひどくぎくしゃくしていた。  それ以来、お互いが何となくお互いを避けている。  こんなはずじゃ、なかったのに。

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