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love you
「せんせー、バイバーイ」
「コラ、さよーならくらい言えよ、高校生なんだからっ」
「いーじゃんねー」
「ねー」
笑い合う生徒達に苦笑しながら、気を付けて帰れよと声を掛ける。
「あっ。朋弥先生もバイバーイ」
「……朋弥先生って、なんかちょっとヤなんだけど」
「いーじゃん可愛くてv」
「……可愛いって言うなっ」
「かわいーv」
きゃーv なんてからかわれてる朋弥に目をやると、照れて目元を紅くしながら、ブツブツ怒ってて。確かに可愛いかも、なんて思ってから、ハタと我に返る。
(だから! 何可愛いとか思ってんだよオレは!)
着任式の時と言い、今と言い。ホントにオレおかしくなったかな、なんて思いつつ朋弥の方を見れば
「大体、バイバイとか言うなよ。なぁ、相ざー先生」
むすぅっと膨れっ面で同意を求められて、吹き出すのと同時に胸の奥の方が跳ねるのに気付いた。
(ヤバイわオレ。マジでおかしい)
笑うなよ、と怒る顔まで可愛いと思うんだから、可笑しくないなら一体何なんだろう。
「まぁまぁ、とにかく。早く帰って宿題しろ、宿題」
「えー、ダルイし。絶対嫌」
「お前ら明日絶対当ててやる」
「ひっどーい、オニっ」
「何とでも。行こ、と……赤井センセ」
「オレも当ててやるからなー」
いーっ、と歯を剥く姿まで可愛いって、どうかしてるよオレは。
そんな風にゲンナリしながら、まだ文句言ってる生徒はサッパリ無視して職員室の席に着く。
「ホントにもう、オレのこと何だと思ってんだろ」
ぶつくさ言いながらパソコンを開く朋弥に適当な相づちを打ちつつ、頭の中では全く別のことを考える。
オレは朋弥のこと、一体なんだと思ってんだろ。
イイ同僚? イイ友達?
よく解んねぇよ、なんて心の中で毒づいてから溜息を一つ。
ちらりと隣を窺えば、文句を引っ込めて一生懸命作業してる朋弥が居て。
真っ直ぐな瞳が綺麗で、ギクリとした。
真っ直ぐで、いつも一生懸命で。生徒は勿論、教師や事務員さん、果ては食堂のおばちゃんにまで評判が良い。
そう言う真っ直ぐさは眩しい位なのに、一生懸命すぎて、もどかしくもあった。
頑張りすぎなんじゃないの?
そんな風に言って、とめてやりたくなる。
もうちょっとくらい、力抜いても良いんだよって、優しく抱き締めてやりたくなる。
(----------------はぁ?)
そこまで考えてから、自分で驚いた。
(抱き締めてやりたくなるって、何だよ)
オイオイオイって苦笑いを無理矢理唇に貼り付けた後。
(頭冷やすついでに部活に顔出して来よ)
やれやれ、と頭を振ってから職員室を出た。
*****
ちょっと様子見のつもりで行ったハズなのに、結局下校時刻まで付合ってしまったと、慌てながら職員室に向かう。
今日でなくても良いのだけれど、早めにやってしまおうと思っていた資料作りがあったのだ。
最近----朋弥が来てから、何となくペースが乱れているような気がする。
彼を、目で追いかけてしまうから。
(あぁ……もう、だから)
イラッとしながら髪をかき混ぜて、大きな溜息を吐いた。
「……なーんかなー……」
やれやれ、ともう一つ溜息を吐いてから、職員室のドアを開けて。
「……まだやってる」
一番始めに朋弥を捜すのも、もう最近の習慣だった。
直接自分の席に行かずに、二人分のお茶を入れてから
「まだやってんの?」
「へっ?」
「ずっとやってたの?」
「あー……うん、やってた」
日本語って難しいよね、なんて苦笑した朋弥に、何言ってんだよ、と苦笑を返してから、ん、とカップを差し出す。
「お茶にしよ。休憩」
「……ありがと」
はにかんだような笑みを浮かべて、朋弥がカップを受け取る。
それだけのことに、初恋を知った中学生みたいに心が揺れて。
(うそだろ)
認めざるを得なくなった恋心に、愕然とする。
そういうことだ。自覚するのが嫌で、目を逸らして気付かないフリを続けて居たけれど。
好きなのだ、自分は。
目の前で、お茶を美味しそうに一口飲んだら、またパソコンに向かってる、真っ直ぐなこの人が。
どうしようもなく、好きなのだ。
ぐったりと椅子に座ってから、自分も気を紛らわせるためにパソコンに向かう。
「…………ねぇ相ざぁ」
「ぇ?」
自覚したばかりの想いを抱えて、捗らない作業を半ばヤケクソで続けていたら。
ゆっくりと笑った朋弥がこっちを向いて、さっきまでオレが飲んでたカップを差し出してきた。
「なに?」
「お茶にしよ」
「……」
「入れ直してきた」
ほら、と笑って差し出されて。
「イライラしちゃ駄目だよー」
笑顔で付け足されて、どうしようもなく嬉しいのと苦しいのが、ごちゃ混ぜになって胸に溢れてきたけど。
ありがとって、返してカップを受け取ったオレは、自分でも解るくらいに満面の笑みを返してた。
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