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第14話 友哉
こんな言い方はどうかと思うが、ぶっちゃけモテないわけじゃない。
職種もあってか、
俺が誰かと付き合おうという気持ちさえあればきっと、
恋人を作ることはさほど難しいことではないのだ。
現に、
昨晩、付き合いを断った相手も残念そうにしていた。
でもこの数年で思い知ったのだ。
結婚を考えられない俺には、恋愛はあまり向いてないってこと。
正直、付き合う女性はほとんどがみな
・・・少なくともオレの知る限りは・・・
付き合ったその先の景色を見ている。
ただ「いまだけを付き合う」ことを積み重ねることが出来ないのだ。
ましてや見合い相手なんて、その景色しか見ていない。
本来ならば一緒に見るべきその景色が俺には見えない。
それは相手が悪いとかそういうことではなくて、
ただ、「見えない」のだ。
誰かと生活を共にするという景色が、俺にはまったく見えなかった。
それは俺の問題だ。
俺にとって結婚とは、どこにメリットがあるのかがわからない。
独りは好きだし、独りは楽だ。
まぁでもときどき、誰かにそばに居て欲しくなるときはある。
昨日がきっと、そういう日だった。
だから那津の言った「相乗り」なんていう、
いつもなら煩わしさしか感じないであろうその提案に、
本当に珍しく俺は同意したんだと思う。
相手が男だってことだけが、少し意外だったけれど。
まぁでも、男でよかった。
一晩限り・・・という付き合い方は、もしくはそういう関係は、
いまのところオレの人生には起こることはなかったし、
それは過去の俺が好んで選ばなかったからだということもわかっている。
俺にとっては一晩だけという関係の、
メリットよりデメリットの方が色濃く見えてしまうからだった。
それならば、独りでいい。
それなりにやりがいのある仕事をして、
独りで美味い料理を食べて酒を飲んで、
それだけで十分、日常は暮らしていける。
ーーー・・・
「フリーターってお前、いったい何やってんだよ」
「イベントスタッフだよ。週4日くらいだけ働いてる」
ほんの数時間で散らかってたリビングが見違えるほど綺麗になって、
俺はかなり驚いた。
那津はほとんどのものを捨てることなく、
見事に「片付け」てくれていた。
「すげーなお前」
心の底から感心してそう言った。
自分の部屋はけっこう広かったことを実感する。
「そう?ともちゃんが出来なさすぎなんだよ」
ノートパソコンをしまってソファに座れば、
なにも言わなくても冷たいお茶が出てきた。
「ありがと」
「いーえ」
ニッコリ笑いながら那津はとても自然に、
俺の隣に座ってこちらを見つめる。
その人懐っこい顔に、俺は思わずふっと笑った。
「ハウスキーパーにでもなれば?」
「え?」
「イベント云々やるよりそっちのほうが向いてんじゃねーの?」
それはとてもなにげなく、
ちょっと思いついたからそう言ってみただけだった。
「なるほど~」
すると那津は、そんなことは思いつきもしなかったって顔をして
そして・・・
「なんだよ」
俺の顔をじっと見る。
「それ、いい考えだね」
「お前・・」
ヒトはときおり、
目の前にある見えている、または見えていない情報から、
言われなくともちょっと先の未来が見えることがあって、
いまの俺にはこのあと、
那津がいったい何を言おうとしているのかが完ぺきに分かるのだった。
「ダメだ」
「まだ何も言ってないよ」
「お前顔に出てんだよ」
「お願いっオレ行くトコないんだよ」
ああやっぱり厄介だ。
頭を下げながら両手を合わせる那津は、
いつの間にやらソファの上で正座をしてる。
「知るかよ。俺には関係ない」
「お願いっ」
「一晩だけって約束だろ」
「ゔ~・・・」
その姿はなんだか、垂れ下がった犬の耳が見えるみたいだ。
「わりぃけど誰かと住むなんて俺には無理」
「どうして?」
「一人が好きなの」
「邪魔しないよ」
「そんなの出来るわけねーだろ」
「やってみないとわからないよ」
「あのなぁ・・」
「チャンスをちょうだいっ」
「チャンスって・・・」
思ってた以上に食い下がるから少し驚いた。
よっぽど「帰りたくない場所」に帰りたくないってことなんだろう。
でもだからといって、
なんだかわけのわからない男と暮らすなんてことは出来るわけがない。
「よく知りもしないヤツと一緒になんて住めるか」
「じゃあこれから知ってよ」
「そういう問題じゃ」
「お願いっ」
・・・コイツ・・・
見た目は明らかに成人男性のくせに、
俺にはなぜか頭の上に犬の耳がチラチラ見えて
どうしたってどこか複雑な気持ちになる。
「ありえねぇ」
「お願いしますっ」
頭を深く下げると、奥にはしっぽまで見えた気がした。
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