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第22話 那津

車の助手席に乗ったのはいつぶりだろう。 いつもの買い出しが ともちゃんと一緒のドライブ付きのデート・・のようなものになった。 こういう狭い空間はなんだかドキドキする。 おまけに男の人が運転する姿ってなんだか好きだ。 「昨日は寝れたか?」 「うん」 「嘘つかなくていい」 「へ?」 ウソをついた気持ちは全くなかったからびっくりする。 「イビキ。うるさかっただろ」 「あ~ははっ・・まぁね。でもよく寝れた」 すると、ともちゃんは一瞬、ジロリとオレを見る。 「ホントだよ」 だって本当にぐっすり眠れたのだ。 ・・・まぁ、おそらく酒のせいもあって。 「ソファよりはよく寝れたっホントにっ」 最後はちょっと怒鳴るみたいにしてそう言った。 「なら良かった」 ようやくともちゃんはうなずきながらそう言って、 オレもようやくその返事に満足する。 とはいえ、同じベッドに寝ることに躊躇していた理由が あの豪快なイビキのせいだと完ぺきにわかってしまって、 正直ちょっと残念な気持ちになった。 それにしても、 イビキを気にしながらもオレのことを気遣って、 たったいまも オレのためのエプロンを買うために運転してくれてるともちゃんは・・・ 「なんかやっぱかっこいいよね」 「あ?運転できる男なんて山ほどいるぞ」 「そういう意味じゃない」 周りに気を配れる男ってのは格好がいいのだ。 「お前、免許は?」 ともちゃんは話を逸らした。 「ある。ペーパーだけどね」 「じゃ、帰り運転しろ」 「だからペーパーだってば」 「やれば思い出す」 「ともちゃんオレに命預けるなんてヤバすぎ」 こんな風にドライブデート・・・だと思ってる・・・するのは久しぶりで、 向かう先がどこであっても嬉しくて、明らかにテンションがおかしい。 ほんとはエプロンなんてどうだってよかった。 着てる服だってたいして高いわけじゃない。 もとからモノにあまり執着しないオレは、 実家に帰らなくなってから あのボストンバックいっこに収まる量のモノたちだけを持ち歩いて、 いままでもやってきてる。 「実家なんだろ」 「ん?」 「帰りたくないってさ」 「あ~・・・うん」 オレにとって、唯一の帰れる場所だけど、帰れない・・・ 帰りたくない場所。 「俺も実家は帰りずらい」 「ともちゃんも?なんで?」 こんなにデキた息子がどうしてそんなことを言うのだろうか。 「帰るたび、見合い話が待っている」 「あ~・・」 出会った翌日、他人と住むことは出来ないと言っていた、 ともちゃんを思い出す。 「結婚に興味ないの?」 「ない」 「まったく?」 「まったく」 こういうところがともちゃんらしい。 スパッと迷いなく、自分の気持ちを知ってるところ。 そうして昨晩、一緒にベッドに入った相手がそう言ってくれるのは、 ともちゃんが男に興味がなかったとしたってちょっと嬉しい。 だってもしかしたら、 ともちゃんは一生、誰のモノにもならないのかもしれないから。 「あの日も実家帰りだった」 「あの日?」 ともちゃんはオレを拾ってくれた日は、 見合い相手に断りをいれて、実家で揉めた後だったと教えてくれた。 「ここんとこずっと付き合ってる女がいないせいで あの人たちすげー前のめりなんだよ」 内容がなんであれ、ともちゃんのことを知れるのは嬉しい。 「なんで彼女つくらないの?」 結婚はしないとしたって、彼女って存在を作ることは出来るだろう。 「結婚を考えずに付き合うことが出来る相手って少ないだろ」 「そうかもね」 結婚とは無縁のオレにはよくわからないけど、 世間はきっと、そういうものなのだろう。 「俺、誰かと一緒に暮らすのとかマジで無理」 ギクッとして一瞬、思考がストップしたあと苦笑いになった。 「それ、エプロン買いに行こうとしてるいま言われるとなんかフクザツ」 「っわりぃ。お前はその~・・・」 ーーお前はその~・・・ーー いったい何と続くのだろうか。 オレはともちゃんをチラリと見る。 「まぁ・・・なんて言うか・・・」 ーーまぁ・・・なんて言うかーー なんだろうと思いつつも、 なんだか言いにくそうなその表情はやっぱり可愛いなと思った。

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