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第23話 那津

「お前ってなんかイヌみたいだなって思っててさ」 さすがにちょっとショックを受ける。 「まさかのペット扱い?人間以下?」 不貞腐れてともちゃんをジロリと睨んだ。 「いや・・わりぃ。いまはそんな風に思ってない」 ともちゃんはどこかわざとらしくしっかりと言葉を区切りながら言うから、 オレもわざとらしく大きくため息をついた。 「わんこはともちゃんのパンツを洗ってはくれないでしょ。 せめて家政夫あつかいしてよ」 「ごめん。マジですげー助かってます」 ともちゃんはこちらを見て、 一瞬だけ視線が交わると二人して笑った。 「こっちこそ助かってます。居候ありがとね」 正直、ともちゃんのそばに居られるなら 犬でもなんでもかまわない気もする。 ・・・少なくともいまは。 「お前が実家に帰りたくない理由は、 やっぱ男好きってことが関係してるわけ?」 「うん」 悪い人たちじゃない。 そう思う。 感謝だってしている。 でも居心地は悪い。 「帰りずらいけどでも時々、母親から電話あるから そしたらちょっとだけ顔出すようにしてる」 父親には会わずに済む時間に。 「そうか」 「・・・高校を出て一応、進学はしたんだよね」 だけどたいしてやりたいこともなかったオレは、 学業ではなくアルバイトばかりをやるようになっていく。 そうして多少、金を持つようになると、 男ばかりが集まる、イカガワシイ場所に顔を出すようになっていった。 「とはいってもね、 そこまで度胸ないしまだ10代だったから、 そんな危ないとこは行かないんだけどね」 こんな話し、自分からするなんてことはまずないのだけれど、 でもきっと、ともちゃんには話してもいい。 このヒトはオレを「オレとして」見てくれているから。 「まぁそういう場所に興味を持つときってあるよな」 「ん~・・・ていうかさ」 男同士のあれこれを経験するには、 結局、そういう場所が一番手っ取り早いのだ。 というか、そう言う場所しかないと思っていた。 「オレ達みたいのは、 ふつーに暮らしてると恋愛する相手に出会わないんだよ。 ・・片思いは出来るけど」 「なるほど」 とはいっても。 結局、そういう場所でも 恋愛相手は見つからないってことを、いまならわかる。 ただ、セックスする相手は見つかるってレベルだ。 「男しかいない場所で、周りがみんなオトナで、 そんなのさ、ちやほやされるに決まってるじゃん? だからそんなトコロにばっか入り浸るようになっちゃって、 もともと勉強もできないから学業なんてどんどこおろそかになっちゃった。 で、大学辞めちゃって ますます実家に帰りずらくなっちゃった」 おどけていってみたモノの、あの頃の自分はあまり好きじゃない。 抱えていた虚しさを懸命に隠して、どこか無理をしていた。 「男遊びばっかしてたわけね」 「だって10代だも~ん」 「まぁ、わかるけど」 「わかるの?ともちゃんもイカガワシイ場所に行ったりしたの?」 「あったかもな」 「あ~なにそれズルい」 「もう忘れたよ」 笑って、オレの話に付き合ってくれるともちゃんはきっと、 オレとは比べる必要もないくらいにしっかりと、 学生生活を過ごしてたんだろうってことくらいは想像がつく。 それでも、 こういうオレみたいなのを否定しないでいてくれて、 おまけに変にいろいろひけらかさない、オトナのこの人はきっと、 オレなんかよりもずいぶん、「まっさら」なんだろうなぁなんて思う。 「やっぱともちゃんはかっこいいね」 心からそう思ってそう言った。 「お前のソレ、たぶんなんか間違ってるぞ」 「そんなことないよ」 休みの日。 ともちゃんとのドライブはこんなに楽しくて、 ともちゃんのそばにいたいなと思う要因がまた一つ、 増えてしまった気がした。

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