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第24話 友哉

「これどうかな?オレに似合う?」 「・・・・・ああ」 「・・・なに?その恐ろしく長い間は。そしてその顔は」 週末の。 真昼間のショッピングモールってのはなんだか眩しい。 広々とした空間に、家族ずれや明らかに恋人同士の、 なんてことない休日の風景が広がっていて、 こんなところにはそうそう来ないせいか、 その空間はなんだか自分にとって、とても居心地悪く感じる。 おまけにそんな中で・・・ 「やっぱこっちにしようかな~」 俺はいったい、なにをやっているのだろうか。 「ねぇ。ともちゃんどう思う?」 どう見ても、さほど違いの分からないエプロンを広げて、 那津は迷っているらしい。 「ともちゃん、聞いてる?」 「っおま・・近い」 いきなり那津のドアップが現れると、思わず後ずさった。 「だって聞いてないんだもん。 もしかしてホントにレースのフリフリがいいの?」 「ばっ・・違うわ」 思わず突っ込むが、確かに俺は少しおかしい。 だってなんだか・・・ 「・・・なんか」 「ん?」 ・・・ヤロー二人でこんなところで、エプロン選んでるという絵面は・・・ 「なんかやべぇ図になってねぇ?」 「え?」 途端、辺りを控えめにキョロっと見回した。 「もう・・ともちゃん一人でなにブツブツ言ってんの?」 怪訝な顔してこっちを見る那津に、 確か、エプロンを買おうと言い出したのは自分だったことを思い出して、 「わりぃ」 楽しそうにエプロンを広げてる那津に謝った。 やっぱネットで探せばよかったと声に出さずにそう思って、 楽しそうにエプロンを身体に当ててる那津を見る。 「こっちがいいかなぁ~」 身体のラインが細い、 男を好きだという那津がそのエプロンを身体に当てている姿は、 なんだか非常にアンニュイで、 はぁっと息を吐くとなぜだかゴクリと唾を飲んだ。 「っそれ。それにしよう。似合ってる。うん。それだ」 「っは?ちょっ・・」 居たたまれなさがそろそろ限界でさっさと買い物を終わらせたい俺は、 ちょうど身体に当てていた、深緑色したエプロンを ひったくるようにして那津から奪った。 「ちょっ・・ともちゃんっ」 那津が自分の名前を呼んでいるとわかりながらも、 そちらを無視して大股で歩いてレジに持っていく。 「これを」 「はい」 レジにいる女の店員がニコリと笑う。 店員がそのエプロンのタグをレジに通している間、 いったいどこを見ていたらいいかわからなくて、 視線はせわしなく動いていた。 「ねぇともちゃん。もう一個買っちゃだめ?」 「ぅわっ」 すると耳元で声がして、瞬間、大きな声を出してしまって振り返ると、 そこにはまた、那津のドアップが現れた。 「ともちゃんうるさいよ」 「っおま・・」 「どうしたの?」 だから近いんだよっ・・と言いかけて、 ひとり、妙に変な意識をしてる自分に困惑する。 驚きと、どこか心配そうにすら見える那津の顔を見てようやく、 なぜか焦っている自分に気づいて、ひとまず落ち着こうと息を吐いた。 「わりぃ。なんでもねぇ」 男同士で買い物に来ることなど別段、普通のことだと思うのに、 一緒にいるのは那津で、そして買っているものがエプロンという事実は、 なぜだか自分を挙動不審にさせるのだ。 「ねぇもう一個欲しいんだけど。 オレが出すからさ。洗った時の替えが必要でしょ?」 「わかった。なんでもいーから選べ」 「え~ともちゃんも一緒に選んでよ」 「なんでだよ」 見えてはいないがすぐそこにいる、レジの店員の存在が、 那津と話している最中にも気になって仕方がない。 「だってともちゃん家で使うんだしさ。 ご主人様がオレに似合うヤツちゃんと選んで」 那津の言葉に驚愕して、目も口も開いて息が止まると、 俺はなぜか慌ててその店員を見る。 すると目が合って・・・ 「・・っ」 にっこり・・・笑われた。 完全に・・・ 完ぺきになにかを誤解されてしまったと感じてゴクリと喉が鳴る。 「っ・・わかった。わかったから・・・」 けれどもそこで騒ぎ立てたら、事態はさらに悪化するだけだと、 焦る俺でもわかっている。 「すみません、ちょっと・・・もうちょっと見てきます」 「はい。こちらは預かっておきますか?」 お願いしますと言いながら、自分の視線は相変わらず定まらなくて、 店員がどんな顔をしてるのかはまったく、わからなかった。

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