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第27話 友哉
結局、チャーハンを食いながら
そのままダラダラとビールからワインから飲んでいき、
気づけば焼き肉とそしてケーキを食いながら、
たわいもない話しが続いていく。
それは記憶にも残らないような。
でも、エプロンを付けたままで酒を飲む、
那津とする会話中、俺は終始リラックスして笑っていた。
きっと普段はたいしてその存在について考えない、
孤独という感情の持つ寂しさとか虚しさだとかいうものたちを、
那津が分かち合ってくれているのだ。
そうして、
こういう相手は誰でもいいわけではないこともわかっていた。
この日の夜。
那津がやって来てからはじめて、
那津の方が先につぶれた。
ーーー・・・
翌朝。
いつもより少し遅い時間に起きると、ベッドに那津の姿はない。
起き上がって軽く顔を洗うと、
音をたてないようにリビングへ向かう。
昨晩、俺より先にエプロンを着けたままでつぶれた那津を、
そのままそのソファに寝せて毛布をかけてやった。
そうっと見れば、
いまだ気持ちよさそうに口を開けてそこに寝ている。
なんとなくホッとして、
なんとなくその姿をほんのしばらくの間、眺めた。
考えてみれば、
那津の寝顔を見たのはこれが初めてだったことに気づく。
このソファに寝てた時からいつだってコイツは
俺より早く起きて、俺より遅く寝てたから。
少しの間見つめて、上半身をかがませるとその髪を撫でた。
風呂に入っていない、ワックスがついたままのその髪は
少しベタついて、それでもその髪の柔らかさはよくわかる。
うっすら口ひげを生やして眠るその顔は
目を閉じているせいなのか、
昼間、笑っているときよりもさらに幼く見えた。
なんだろうこの感じは・・・と思う。
一回り年下の男を、なんだかとても可愛いと思う。
きっとこれは・・・
「弟が出来たらこんな感じなんかな」
たぶんそういう感じ。
なんだか未知の生物って感じでどこか新鮮なのだろう。
那津をそのままにして、
なんとなくキッチンへ行くとぐるりと辺りを見回した。
この2週間の間に
このスペースは俺ではなくて那津の色にずいぶん染まった。
冷蔵庫を開ければ、
そこにはけっこうな量の食材なんかが入ってる。
なんとなく、卵を取り出してみた。
自慢じゃないが、料理は本当にやったことがない。
でもたまには・・・
頭の中で、那津がここで動き回ってる映像が流れると、
音を立てないようにして、フライパンを取り出してみた。
ーーー・・・
「なにやってんの?」
「っ!」
突然、後ろから声がして、
びっくりしすぎて声が出ないまま後ろを振り返れば、
そこには髪がメドゥーサのようにぐちゃぐちゃになってる那津がいた。
「おま・・いきなり声かけんなよっビビんだろーが」
必死すぎてその気配にまったく気づいていなかった。
なんとかしようと慌てて、焦って、本気で周りが見えていなかった。
「なに?それ」
眉をひそめて那津が眺める、フライパンの中のその黒い塊は・・・
「・・・元卵」
「もと・・・たまご・・?」
慣れないことはするもんじゃあない。
結局、フライパンに卵を割ってみたはいいものの、
割った後にどうしたらいいのかを迷っている最中に、
あっという間にそれは茶色に色を変えていって、
急いで皿に盛ろうとしたら火を止め忘れていて結局、
両面カリっと、食べ物とは思えない真っ黒な物体が出来上がった。
半分まだ寝てるような、腫れぼったい瞼をした那津は、
何とも言えない表情でゆっくりと、俺の顔を見る。
そして視線が絡むと・・・
那津はひゃひゃひゃっと盛大に笑いだした。
「あ~なんか安心した。
ともちゃんはホントに料理が出来ないんだ」
煙たいキッチンで寝起きの那津に笑われて
「安心ってなんだよ」
恥ずかしくて、けれどもなにも言い返せない。
そして、笑われているというのにあまり、
イヤな気持ちにもならなかった。
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