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第28話 友哉
「だってともちゃん、
なんだか全部をかっこよく出来ちゃいそうだから」
「そんなことあるわけねーだろ。お前なんか勘違いしてんだよ」
エプロン姿で笑う那津になんだか和む。
こっちまでホッとして笑う。
この年で、本気で家事全般がまったく出来ない自分を、
コイツは少しもバカにしたりせず、
さらには教えて、身に付けさせようともしない。
「ごめんね、オレ寝ちゃってたから。お腹空いちゃった?」
「・・・ああ」
・・・本当は。
那津になにかを作ってやりたい気持ちだったってことを、
俺はなぜだか言わずにしておいた。
そんなことはあまりに俺らしくないからだ。
「顔洗ったらなんか作るね」
「急いでねぇからシャワー浴びて来い」
「いいの?」
「ああ」
本当になにも急いでなどいなかった。
「じゃあシャシャっと行って来る~」
那津は両手を上にあげて、
あくびをしながら大きく伸びをするとニコッとした。
「洗い物はオレがするから、換気だけしといてね」
「・・・はい」
それはつまり、もう触ってくれるなという合図だった。
この家のキッチンは、もう那津の城なのだ。
メドゥーサの頭を揺らしながら
エプロンをつけたままでくるりと背中を向けると、
軽やかにリビングを出ていく那津を無意識のままで見つめる。
言われた通りに窓を開ければ少し冷たいけれど気持のいい風が吹いて、
それはまるで自分の気持ちと同じだった。
ーーー・・・
ふっと目を開ける。
「っぅわ」
「ともちゃんおはよ」
すると、目の前には那津のアップがあった。
「あれ・・・」
気づけばソファの上に、
さっきまで那津が掛けてた毛布をかぶって寝ていた。
「さすがにまだ、窓開けたまま寝ちゃったら風邪ひくよ~」
言いながら、那津はキッチンへ消えていく。
ぼーっとする頭がようやく動いて、
さっき、那津を見送って窓を開けたあと、
ソファで寝てしまったんだと気が付いた。
「もうじき出来るよ」
見れば昨日の余韻が残っていたテーブルは片づけられて、
美味そうな匂いがしてる。
「ともちゃん気持ちよさそうに寝てるから
なんか起こすのやめといた」
「・・・ありがと」
昨日とは違う、ベージュ色のエプロンを付けてる那津を、
なんとなく目で追いかける。
うたた寝など、いったい何年ぶりだろうか。
独りでいたってめったにそんなことにはならない。
先に起きたはずの俺はまだパジャマで、
那津はちゃんと着替えていて、
頭に生えてたメドゥーサはどこかえ消えていた。
ーーー・・・
目の前に、まぁるく綺麗なカタチの二つの目玉焼きが、
豪華にベーコンまで伴って、白い皿の上に乗っかっている。
「目玉焼きでよかった?」
「あ?ああ・・ん」
どうやったらこのカタチに、そして
黄身に至ってはこの完璧な半熟な状態になるのだろうと不思議に思う。
「やっぱ家事全般、俺には向かねぇ」
ため息交じりに、吐き出すようにつぶやく。
もう知っていたことではあったが、再度、改めて認めた。
「そうみたいだね」
嬉しそうにする那津が作ってくれた、
少し遅い朝食を二人で食べる。
「それ」
「ん?」
「似合ってる」
「エプロン?」
「ああ」
今度は決して適当ではなく、心の底からそう言った。
「ともちゃんが選んでくれたからね」
那津はやっぱりニコッと笑った。
一緒にエプロンを買いに行ったこと。
そもそも、
料理をするにはエプロンがあった方が良いと思って、
コイツに買ってやりたいと思ったその判断すらも、
それは間違っていなかったのだと妙に納得するように、思った。
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