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第29話 友哉
「那津、ちょっと来い」
「え?」
遅めの朝食の後、
俺は那津が皿を片付けるのを待って、寝室に呼んだ。
「こん中、片づければおまえの荷物、入れられるだろ」
寝室のクローゼットを開けると、
そこはとても綺麗とは言えない状態で、
本当ならあまり他人には見せない場所なのだが、仕方がない。
どうせ片づけられないとわかっている俺は、
基本的にはあまりモノを持たないようにして入る。
けれども、生活をしていれば気づけばモノが増えていくもので、
ソコには洋服をはじめ、
とりあえず入れておいたモノたちなんかも入っている。
仕事で必要なモノ以外はほとんどぐちゃぐちゃで、
季節ごとに入れ替えるなんてこともしたこともない。
基本、このスペースは人になんて見せないから、
いままで片づけたことなんてなかった。
「ともちゃんコレ、なにがどこにあるか把握できんの?」
那津は笑いながら言って、
「言われると思った」
俺はやっぱりばつが悪かった。
たいしてデカくはないボストンバックひとつが
唯一のコイツの持ち物の全てだ。
それをずっとあのソファの横に置いていて、
それもずっと気になっていたのだ。
どこか、所定の位置を作ってやりたかった。
「お前の好きに弄っていいから」
「ホントに?いいの?」
「ああ。那津がいらないんじゃないかって思ったモノは全部、
捨てちゃっていいよ」
「え?」
「どーせ大したものは入ってない。
いちいち聞かなくていいから勝手にしろ」
もしかしたらずいぶん前に付き合ってた女がくれた何かしらが
あるかもしれなかったが、
すでに記憶にないということは、そう言うモノだということだ。
「じゃ、いまからやっていい?」
「ああ。いいよ」
心なしか背中が喜んでいるように見える那津に、やっぱり俺は笑顔になった。
「でもさ、ホントに見ておかなくていいの?」
「ああ」
「エッチなDVDとか隠さなくていいのかな~」
ときおり、天を仰ぐことになるのは今後も続くのだろうか。
「ば~か」
「ここじゃない?」
「ばかが」
若いって素晴らしいというか、俺が年を取ったのだろう。
那津の言動を見てるとそんなことをヒシと感じる。
「ねぇ。彼女をつくらなくなっててどのくらいたつ?」
「あ?あ~・・どうだっけなぁ・・・」
最後に付き合った女と別れたのはいつだろう。
日々の忙しさにかまけていればそんなことはすっかり忘れてしまう。
きっと、そこまで思い入れがなかった女性だったのかもしれない。
相手にはとても失礼なことに。
「いない間って・・・どうしてんの?」
「なにが?」
「だからさ・・・」
しばらく視線が絡んで・・・
ーーお願い。させて?ーー
突然、初めて那津に会った日の夜を思い出した。
ーーきっと気持ちよくするからーー
「・・お前ってホントに」
「ん~?」
どことなくニヤニヤする那津の顔を、
大きく開いた手のひらで覆うとグイっと向こう側へ押しやった。
「っちょお・・っもう!」
「ったく。くだらねぇこと言ってんじゃねぇ」
「だからくだらなくはないでしょ」
「ば~か」
「ともちゃんホント口悪いっ」
騒ぐ那津を無視して俺は寝室を後にした。
以前も思ったこと。
那津はどっち側なんだろうとか。
もしかして、どっちもいけるのだろうか・・・などと。
頭に浮かんでしまった疑問を頭を搔きながら、なかったことにした。
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