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第31話 那津

急げ~急げ~・・・っと心ん中でつぶやきながら、 夜風が寒いのかあったかいのかも気づけないままで、 とにかく前に進むことにだけ、意識を向けて妙に真剣に歩いてく。 あの部屋に転がり込んでからはじめて友達と飲みに行った帰り道。 ともちゃんにはちゃんと連絡をして、 おまけに楽しんで来いとも言われていたのだし、 あの日のように、終電まで飲み明かしてるってわけでもないくせに、 なぜだかオレは焦りにも似たような気持を抱えつつ、 ひとり必至で速足で歩いていた。 ともちゃんに会う前のオレは、 飲み会には呼ばれれば参加する感じで、あまり断ってはこなかった。 自分から誘ったりすることは滅多にしないけど、 わりと付き合いがいいタイプの人間だったと思う。 でも、あの居心地のいい部屋に・・・ ともちゃんのそばに居ることが当たり前になってからは、 バイトが終われば出来るだけ足早にあの部屋に帰る。 ときにはスーパーに寄ったりして、 そうして、あの部屋で料理をしながら ともちゃんを待つ自分が当然になってしまったら、 ついつい外に出る機会が減っていた。 ともちゃん家に居着いてから あの部屋にはやく戻りたくなってしまっているオレは、 飲みの席の誘いをすでに2度、断っている。 今日の集まりは 実はすっかり忘れていたのだが、 カズからメッセージをもらって これだけ長く友達に会わないってことは今までになかったから、 さすがにまずいかなと思った。 だから、ともちゃんには悪いかなと思ったものの、 今日は飲みの方へ行くことにしたのだ。 楽しんで来いっていうともちゃんからのメッセージは、 ホッとしたような残念なような・・・ 何とも言えない気分にはなったけれど、 久しぶりに友達に会うのは楽しみだったってのはある。 あの行きつけのお店で知り合った、 男が好きな数少ない友人たちとの飲み会は、 互いに世間とは馴染めない中だという共通点と、 年齢も近かったせいもあってか、一緒にいて楽しい奴らだ。 へんに本心を隠すことなく、 恋愛のイロイロを含めてざっくばらんに話しが出来る相手は、 オレみたいなのにとっては貴重だった。 飲んでる間、ともちゃんのことは気になってたけれど、 みんなと会ってしまえばそれはそれで楽しくて、 気づけば帰ろうと思っていた時間を1時間以上過ぎてしまっていた。 「ただいまぁ・・」 玄関で小さく言って、 やっぱりちょっと速足でリビングに向かおうとする・・・と。 バスルームからシャワーの音が聞こえて、 ようやくふぅっと息を吐くと落ち着いた気がした。 なんとなく、そこで立ち止まって、 なんとなく、そのドアを見る。 シャワーの音。 このドアの先、そして、もう一つあるガラスの扉の向こう側には ともちゃんがいる。 きっと裸で。 というか、絶対裸で。 扉のこっちとあっちでは、 なんていうか、まったく違う世界が広がっているんだなって 酔っぱらった頭で思う。 このドアの先の世界にオレはとても興味があって、 想像するとドキドキしてしまうことを、酔っぱらった頭でユラユラ自覚する。 「・・・ぁ」 視線が股間にいって、 ソコがゆっくりムクっと形を変えてることに気づくと、 「勃っちゃった」 てへッと独り、笑った。 「はぁ~・・・溜まってるかも」 ぽつりとつぶやくと、 今度はのろのろとリビングのドアに向かって歩き出した。 ドアを開ければ、そこは明かりがついている。 まぁそれは当然だ。 見慣れたその風景は机の上に新聞が出しっぱなしになってるけれど、 今朝、出て行った時とほとんど変わらなくて なんだか悲しい気分になった。 ともちゃんは夕飯を外に食べに行ったのだろうか。 それともオレと同じで誰かと飲みに行ったのかもしれない。 はぁっと、よくわからないため息が出てしまう。 いったい、なにを落ち込んでんだろう。 なんで悲しい気分になるのだろうか。 小さい鞄を放り投げるようにしてソファにかけると、 「んぁ~・・・」 っと声を出しながら両腕を伸ばして、そのままうしろにひっくり返った。

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