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第33話 那津

「はぁ・・オレなにやってんだろ・・・」 ソファの上で、 ともちゃんのことを想いながら腰を揺らしてふっと我に返る。 こんなトコ、ともちゃんに見られたら引かれちゃう。 ってか絶対、追い出されちゃう。 ふぅっと息を吐きながら起き上がると、 膨らんだままのソコをそのままでソファに掛けなおした。 女を好きになる男を好きになるのなんて、 ただの自虐行為だってことくらい、さすがのオレにだってわかってる。 無駄ってヤツ。 意味のない想いってヤツ。 そういうなんにもならない、ただ邪魔な気持ち。 「・・トイレ」 独りぽつりと言いながら立ち上がって、 あとはもう頭の中を真っ白にしようとした。 難しいことは考えたくない。 考えたって答えなんて出ないから。 だからいつも、難しい問題からは逃げることにしてる。 親とか学校とか仕事とか。 逃げて逃げて・・・逃げてれば。 いつか消える。 ちょっとの間は消えてくれる・・・ ともちゃんに気づかれないよう息を荒くして、少し長いトイレから戻ると、 キッチンへ入ってビールを取り出した。 その場で缶を開けてグビグビっと三口ほど飲んで息を吐く。 「おかえり」 すると後ろから、よく知ってる、 何とも言えないその低く響く声がして、ドキリとした。 自然と目を閉じて、はぁっと息を吐く。 「・・・ん。ただいま。遅くなっちゃった」 オレは振り返る前に笑顔をつくると、 その表情を貼り付けたままで振り返った。 風呂上がりのともちゃんに抱えてしまった、 どこか後ろめたい、罪悪感みたいなものを気づかれないように。 ーーー・・・ 「はよ」 「おはよ」 いつもの朝のいつもの時間。 リビングのドアが開いてともちゃんが現れる。 毎朝、起きたてのこのときのともちゃんが一番好きかもしれないと、 ここ最近気づいた。 それは一番「ともちゃん」なカオ。 ホントは豪快なイビキをかく「ともちゃん」らしいカオ。 頭がぼさぼさで、 だらしなく口ひげが生えてる飾らないその姿を見るたびに、 オレの中のどっかがキュンっとするのだ。 味噌汁とご飯を盛ってともちゃんの前に差し出すと、 エプロンを付けたままで席に座った。 二人して手を合わせながらいただきますを言う。 ともちゃんはいつものように、最初に味噌汁に手を伸ばした。 いまのことろ朝食だけはともちゃんと一緒に食べることが続いていて、 連続記録を伸ばしてる。 「今日は定時で上がるから」 「ん。わかった」 「明日の休み、お前なんか予定ある?」 あと数分もすれば、髪をセットしてお高そうなスーツを着て、 賢そうなネクタイを締めて、どこか外の顔になるともちゃんを見つめた。 「ないよ。ともちゃんは?」 「明日から公開の映画、観たいのある」 これはきっと、一緒に観に行こうと言っているのだとわかる。 そして、それはとても嬉しくて、とても苦しいと思った。 「初日って混まない?」 「混む」 混んでる場所が苦手なくせにそんなこと言うから、 思わず味噌汁を吹き出しそうになった。 「ともちゃんが行きたいならいいよ」 「ん。まぁついでに買い出しも行こう」 うんと言いながら、なんだか全身がズキリとする。 ともちゃんのぜんぶが嬉しい。 同じくらい、ぜんぶが苦しい。 「じゃあ行って来る」 「行ってらっしゃい」 いつものように玄関先でともちゃんに手を振った。 パタリとドアが自然に閉まってガチャリと音がするまで、 なんとか笑顔を作った。

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