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第41話 友哉

ーーー・・・ 湯船に浸かると目を閉じた。 目を閉じながら考える。 那津と話さなければと思いながらズルズルしてしまった、 そのワケは・・・ 「俺はいったい・・・」 どういうつもりなんだろうってことが、 いまだによくわからないからだった。 那津のコト。 那津に対する自分の気持ち。 最初はまるで犬みたいだって思ってた。 あんな風に声をかけてきて、 エントランスに座り込む輩を初めて見た。 俺にとってそれはあまりに異色な出来事だった。 そうして初めてソファで眠る、那津の寝顔を見たあの日。 この気持ちは年の離れた弟を愛でる気持ちに似ているものなんだろうって、 そんな風に思った。 けれどあんな場面を・・・ あんな声して俺の名前を呼ぶアイツを知ってしまって、 いまの俺はいったい、那津をどう思っているのだろうかと考える。 男を好きな那津がもし、 俺をそういう意味で好きになったのだとしたら、 その想いを俺はどうしたいのだろうか。 アイツの好意的な気持ちがイヤかそうでないかと言えば、 イヤな気持ちにはならない。 おまけにいまだアイツの存在は大切だと思う。 男のくせにどこか可愛いとも思う。 でもそれは、いったいどういうつもりの大切さで、 どういうつもりの可愛さなのだろうか。 俺はいままでそういう意味で、男に興味を持ったことはない。 けれど、那津は違う。 男しか好きになれないのだと言っていた。 だから考えなくちゃいけない。 男同士の友情的なものでアイツがココにいることは、 きっとあの笑顔をすることに繋がってしまうんだろうから。 「・・・明日にしよう」 答えを先延ばしにするのは好きではない。 だがこの件についてはどうにも、自分の気持ちが見えないのだ。 もしかしたら見たくないのかもしれない。 あまりに未知すぎて、自分でも恐怖を感じているのは事実、ある。 明日は休みで那津も休みだ。 直接、アイツと話そうと決めた。 ただし夜には話したくはない。 なぜならこれから、今日も二人であのベッドで寝るのだ。 どう転ぶかわからない話しを、寝る直前には話したくはない。 それにこういう話しは午前中の明るい中でしたいとなんとなく感じる。 ちゃんと。 本当のこと。 自分の気持ちや那津という存在について。 出来れば明るい中で、すべてに向き合いたいのだ。 それは一種の逃げだとしても、せめてあと数時間だけ、 いつも通りを装いたい気分なのだった。 ーーー・・・ 「は?」 「え?そんな顔すること?」 唖然とする俺の瞳にへらっと笑う那津が映って、 それは瞬間、ひどく腹が立った。 明日話そうと決めたそのすぐ後。 風呂を出て、那津と二人でいつものように夕飯を食べながら、 まるで普通に那津がサラリと「明日出ていく」と突然、言ったからだ。 「っなんで」 ・・・と。 言ってはいけないと思ったと同時に口に出てしまっていた。 那津がどうしてそんなことを言いだしたのか、 俺はもうその理由を知っているというのに。 「ん~・・と」 困ったって顔をする那津に、俺は哀しいのかなんなのか、 とりあえず気分が悪くなってることだけはわかった。 「っだいたい、どこ行くんだよ。行くとこなんてねーんだろ?」 那津からの返事を待たずに重ねて言った。 「ん。とりあえず一回、実家に戻る」 「だからっ」 なんで・・・とは言えない。 「・・・急すぎるだろ」 「ん。ごめんね」 謝られるとさらに腹が立つ。 それはきっと、コイツに謝らせてしまっている自分自身に対してだ。 俺が答えを出すよりも先に、 コイツがそんなことを言い出したことに、なんとも言えない気分になる。 もう少し、あと数時間、待ってほしかったのに。 「なんで・・・いま言うんだよ」 どこまで自分勝手なのだろうとわからないまま、那津を責めた。 「だって明日、突然、当日言いだす方が失礼でしょ」 その返事に また俺は、どういったらいいかわからない気持ちに包まれる。 だってもう那津はすべてを決めてしまっていて、 日程をずらすだなんて思ってはいないということだったからだ。 「ともちゃん、掃除と料理、明日から困っちゃうね」 ひゃひゃっと笑う「ふり」をする那津に。 俺は明らかに不機嫌になりながらも何も言えずに息を飲んだ。 先に答えを出してしまった那津に、 俺はいったい、どうしたらいいのだろうかと頭ん中がグルグルする。 「エプロンは貰ってもいいよね?」 那津の言ってる日本語の理解はできても、 理解したくはなくて、返事のしようがなかった。 わかっていることは、 いま、自分が答えを出さないと、 コイツはココからいなくなると言っているということ。 いま、俺が覚悟をしなければ 俺はコイツを・・・ 那津をきっと、 一生 失う。

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