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第43話 友哉

全身がバクバクしてる。 これはソファで腰を振ってる那津を見たときと同じだった。 試すと言った、これからしようとしてる行為を思って、 無意識にゴクリと喉が鳴る。 男相手ははじめてなのだ。 それよりなにより、こんな風に強引にベッドに誘ったことはない。 寝室の電気は点けなかった。 点けてしまったらいけないと、 もしかしたら躊躇してしまうかもしれないって、 そんな気がしたんだと思う。 ベッドまで一気に行かなければならなかった。 衝動的なもの。 勢いってヤツ。 そういう理屈じゃない原動力みたいなものが必要だって、 俺のどこかが言っていた。 ほとんどいつだって理性の方が勝ってきた過去を振り返ると、 いまの自分がしていることはあまりに信じられないことだった。 那津といると、知らない自分ばかりに出会う。 それもどこか、かっこ悪い自分ばかりだ。 そのくせ、それでも那津といたいと思うのだから、 いったい俺はどこをどうおかしくしてしまったのだろうか。 「っちょ・・っともちゃん」 多少の抵抗をしながらも、 それでも那津は俺に引っぱられるようにしてここまでついてきた。 もし本気で抵抗されたらさすがにココまで連れて来れるはずがない。 そうはいってもコイツも男なのだから。 だからきっと、那津も迷っている。 これから俺がしようとしてることをわかって、 それをどう対処すべきかを迷ってる。 そう思うと、あとはもう強引に押し倒すしかないと思った。 俺は・・・男相手に。 那津を相手にどうにかなるのかということ。 俺の那津への気持ちは、 那津と同じ意味で離れたくないと思っているのだろうかということ。 こんなやり方はおかしい。 いまだに俺のどこかがそう言っているのを聞こえていて、 けれどもそれを必死で聞こえないふりをした。 ドサリと音を立てて那津の細い身体を暗いベッドの上に投げるようにすれば、 ほとんど同時に勢いでそのまま那津の上に覆いかぶさった。 「っ待って・・ちょおっ待ってってば」 那津の声を、聞こえていて無視をする。 「ねぇっ・・待ってよ・・・っねえってばっ」 暗くてよくわからない中で、手首を掴む。 「試してだめだったらどーすんだよっ」 「うるせぇ」 これじゃあなんだかケンカしてるようにも思える。 でも必死だったのだ。 もう後には引けない。 「やめろよっ・・・止めろって言ってんのっ」 那津の声がどこか哀しそうなことに気づいているのに、どうしても 押さえつける手のひらの、力を抜く気にはなれなかった。 「やだっ・・やだってば・・・ーー・・こんなの・・・っオレが傷つくだろっ」 ーーオレが傷つくだろーー 那津のその言葉が頭に響く。 さすがにようやく、俺の動きが止まった。 暗い部屋の中で那津の顔は良く見えない。 それでも・・・ 「・・・お前泣いてる?」 「うるせぇっ離せっ」 那津が泣いてることはすぐにわかった。 潤みがちな瞳はその透明な液体を溜め込んで、そして溢れてる。 今度は全身が後悔で包まれると、 とてつもない失敗をやらかしてしまったことにようやく気付いた。 苦しめたくないと思ったのは本心だ。 それなのに・・・明らかに望まない方の結果が目の前にあった。 「もぅ・・頼むから離してよ」 目が慣れてくればそこには、顔を隠す那津がいる。 ようやく少し冷静になって、 ようやく自分がどれほどバカ者なのかを理解して、 またいでた脚をどかした。 那津は顔を覆いながら壁の方を向く。 鼻をすする音だけが、暗いベッドルームに響いた。 「ごめん」 いったい、いい歳して俺はなにやってんだろう。 落ち込みながらも手のひらは勝手に伸びて那津の髪を撫でる。 那津に触りたかった。 そしたら那津はそのまま髪を触らせてくれるから、 少し迷って でも調子に乗って 隣に横になって後ろから・・・那津をぎゅうっと抱きしめた。 一瞬だけビクついた那津のその身体は、 思っている以上に細くてアツい。 「ごめん那津」 もう一度謝る。 赦してもらいたかった。 赦してもらえるまで謝ろうと思った。 「・・もぅ離して」 声が聞けただけでホッとした。 そして、あろうことか俺はまた、調子に乗る。 「離したくない」 「やめてよそういうの」 「そういうのって?」 「っもぅホントにゃだ」 言いながらシーツに顔を埋めて、 けれども那津はそのまま俺から逃げようとはしないし、 俺の腕を振り払おうともしなかった。 だから俺はそのまま、 抱きしめたまま柔らかい髪の上からはじめて 男の・・・ 那津の うなじあたりにゆっくり唇をくっつける。 はじめて唇で、那津に触れた。

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