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第45話 那津

オレは上半身を起こした。 ベッドの上でともちゃんの唇を首筋に感じながら、 下半身にネツが回った状態で話すなんて出来っこない。 「試すってさ・・試して何を知りたいの? 男でもへーきかどうか?でもそんなの知っても意味ないよ」 偉そうに、オレはなにを言ってんだろうと思いながらともちゃんを責めた。 そんな資格はないとわかっていて。 なんとなく、腹のあたりのエプロンをぎゅっと握りながら。 「そりゃあもちろん、ダメだったらそれまでだし、 まぁ・・わかりやすいかもしんないけど」 「悪かった。ホントにごめん」 ともちゃんは言いながら上半身を起こして隣に並ぶ。 無意識に自分の身体は白い壁の方へ傾いて、 もちろん、ともちゃんのほうを見ることは出来なかった。 「傷つけたくて言ったんじゃない」 「っわかってる。そんなの・・そうじゃなくて・・・」 ともちゃんがそんな人じゃないことくらい、オレは知ってる。 ただいったいどう説明したらいいのかがわからないのだ。 いつもなら説明することなんて放棄して 誤魔化すみたいにもうそのまま抱き合っちゃうか、 無言で立ち上がってへらっと笑って逃げるんだろうけど、 今日はそれが出来ない。 だって相手は、もしかしたら初めて好きになっってしまったヒトだから。 「ともちゃんの言う通りだよ。 オレ、ともちゃんのこと好きになっちゃった」 言いたくはなかったけれど、もう言わないとはじまらない。 ともちゃんはまだ、わかっていない。自分の気持ちを。 きっと、好きってのと便利ってのをごちゃごちゃにしている。 オレは家政夫だったのだ。 でもオレはもう、わかってしまっている。 自分がともちゃんを好きになっちゃってるってこと。 「でもだからこそ、試してもわかんないよ。 ともちゃんが知りたいことは」 なぜかこの部屋の、クローゼットの中にしまってある、 ともちゃんがくれた薄手のコートを思い出していた。 「オレが傷つくなんて、純情ぶって言っちゃってごめん」 「は?それは違うだろ」 「違わない。だって傷つくとしてもそれはオレの責任だから」 試そうなんて思わせちゃったのは、 言わせてしまったのは間違いなくオレなのだ。 「好きかわかんない状態だって出来ちゃうんだよ。ともちゃん」 あんまり言いたくないなって思う。 ともちゃんはオレとは違いすぎる、「普通の世界」に生きてる人だ。 なんならこんなマンションに住んでる、「普通よりもっと上の人」なのだ。 「男に興味ないってヒトともしたことあるよ」 滅多に過去を思い出さない。 それは、思い出す必要もなかったし、 思い出したいと思うような思い出でもないからだった。 だからよくは覚えてはいない。 自分の人生の中のいっときを、ただ、一緒に過ごした人たちのこと。 でも、ともちゃんといると ・・・というか、こうしてともちゃんに説明するために思い出すと・・・ それはやっぱり、 ちょっと虚しいと思う出来事だったのかもしれないと感じてる。 「ともちゃんは経験無いかもしれないけど、 好きじゃなくても出来ちゃうことってあるんだよ。 人肌恋しいとかとりあえずシたいとか、そういう理由になんない理由で。 えっちなんてけっこう簡単なんだから」 「まぁ、そういうことが起こり得ることは知っている」 「男同士なんて余計にそうなの」 女しか知らないともちゃんにはきっとわからない。 男同士なんてちゃんと手順を踏んで衛生面さえ気をつければ、 リスクは大してないし、好きだのなんだの言ってたって 将来の約束的なものとも無縁だ。 国も親も誰も。味方なんてしないのだから。

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