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第46話 那津

「オレのせい。ともちゃんが試すなんて言い出すの」 このヒトは悪くない。 オレに居場所を与えてくれた優しい男ってだけだ。 初めて会った日、 ただ泊まらせてくれるって言ったともちゃんに勝手に手を伸ばして、 男ってのがイヤなら目ぇ閉じてていいよって言ったのは、 間違いなくオレなんだ。 「オレがこの家に転がり込んだときにともちゃんにしようとしたこと、 オレはいままでそんなことばっかしてきたの。 だからいまさら純情ぶったりしない。 だから、したいならエッチなら出来ちゃうよ。 ともちゃんが男が初めてでもオレは違うし、ちゃんとリードしてあげられる。 おまけにきっと、気持ちぃと思うよ」 なぜだか自分の言い方がどんどん投げやりになっていった。 本当のことなのに。 「なんだそれ。お前すげー自信家だな」 「仕方ないだろ。そんなことばっかしてきたんだから」 ともちゃんが知らずに済んだ世界の話し。 それは、ともちゃんにはあんまり知られたくなかった自分のことだ。 でも仕方がない。 このヒトに声をかけたのも、 ソファの上で腰を振っていたのもオレなのだから。 「好きとか。そういう気持ちが無くても出来るんだよ。 っていうか、出来ちゃうときがあるっていうか・・・ なんなら顔が見えなくたって出来ちゃうし。 だから・・・ もし、ともちゃんがオレを・・・ そういう意味で好きかどうかを知りたくって こういうことを試すんだとしたら、 それってきっと意味ないと思う」 一気に伝えて、はぁっと息を吐く。 言いたくはなかったけど、言わなきゃいけなかった。 どっちにしたってオレは結局、この家には ・・・ともちゃんのそばにはもう、いられなくなるのだから。 「お前けっこうちゃんとしてんな」 思わずともちゃんの方へ顔を向けた。 すると、暗くてもすぐそこにともちゃんの顔を見つけることが出来て、 それはけっこう近くてドキっとした。 「ともちゃん、オレの話しちゃんと聞いてた?」 それは意外過ぎる返事だったから、ちょっと呆れてそう言った。 「ああ。お前の言ってることはよくわかった。 お前がいままでしてきたことの意味も分かった」 「意味って・・・そんなものないよ」 実際、意味なんてなかった。 ただ、流れていただけだ。 「自分の気持ちも良くわかった」 どこか吹っ切れたように言われて、オレだけが落ち込んだ。 だってともちゃんは気づいてしまったから。 オレをこんな場所に連れ込んでしまったことが、 ちょっとした勘違いだったことに。 そうして、ダメなオレはやっぱり、 衝動で抱かれちゃったらよかったかもしれないと、 抵抗なんてしなければよかったかもしれないって少し、後悔する。 もう二度とこのヒトにあんな風に押し倒してはもらえないことがわかって、 急にそっちが恋しくなる。 だってやっぱり、好きな人には触られたい。 相手に気持ちがなかったとしても。 ヤったあときっと・・・もっと虚しくなるんだとしても。 うなじ辺りに押し付けられた、ともちゃんの唇の感触が突然、 よみがえった気がした。 「そもそも試すなんて思いつきがおかしい。 俺がそんなことを思った時点で間違ってる」 「・・ん・・そうだね」 「ああ。だからわかった」 ともちゃんを見れなかった。 視線は勝手に下を向く。 そこにはともちゃんが買ってくれたエプロンが見えて、 ともちゃんを好きになってしまったことを悔やんだ。 「試そうって思った時点できっと、俺はお前が好きなんだ」 「・・・・・は?」

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