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第48話 那津
オレはいったいなんでこんなに困ってんだろう。
どんどん勝手に壁に追いやられて身体を小さくすると、
ともちゃんは小さくため息をついた。
「どうすればいい?」
その声にドキリとする。
だってそれはとても優しくて・・・優しいだけじゃない声だったから。
「どうすれば信じる?」
・・・きっと。信じてないわけじゃないのだ。
ともちゃんのこと。
確かにまだ知らないことだってたくさんあるだろう。
でもこの家でこの数カ月、
同じ飯を食ってともちゃんのパンツを洗ってあげて、
おんなじベッドでだって寝てるんだ。
一緒に過ごした時間は決して短くはない。
それなりに知ってるともちゃんはすごく優しくてちゃんとしてて
めちゃくちゃ・・・男前なんだから。
「信じてないわけじゃないよ」
「じゃあなに?」
「そういうんじゃなくて・・・」
「お前が俺を好きで俺がお前を好きなら、
いったいなにが問題なんだよ」
次の瞬間
「っ・・・」
オレは反射的にぎゅっと目を閉じる。
だって突然・・・
だってともちゃんの唇が・・・
オレの唇にくっついていたから・・・
それは一瞬だった。
ともちゃんの片手が壁をついて、暗闇の中でその顔が近づいた。
1秒あるのかないのかのその瞬間の間に、
オレは全身で何をされるのかのすべてを察して、
肩をすくめて目をぎゅっとして
唇はキュッとしてたぶん息も止まって
エプロンをぎゅっとしてた手のひらは、
反射的にともちゃんのひじ辺りを掴んだ。
そうして、
ともちゃんの唇はきっとそうなると思った通りにオレの唇にくっついた。
唇と唇がくっつくってだけのその行為に、一瞬で全身がアツくなる。
ぜんぶが真っ白になる。
混乱して、けれどもともちゃんから逃げるなんて発想にはならない。
だって・・・
オレはともちゃんが好きなんだもん。
キスなんてされたら、それはもちろん、正直やっぱり嬉しいから。
頭ん中は混乱してたけど、
ともちゃんの唇をよけなかったのはそういうことだと思う。
時間にしたらほんの数秒だろう短い時間。
ちょっとパニクってる自分は、
ともちゃんの唇の感触がまったくわからないくらいに、
体感的にもとても短い時間だった。
ゆっくりともちゃんの唇が離れると、
ほとんど同時に顔が下を向いた。
「っ・・はぁ」
ゴクリと唾を飲んで全身で息を吸って息を吐いた。
身体中がドクドクしてるのがわかる。
こんなキスははじめてだ。
襲われるってほど強引でもないのに、
オレはよけられなくて・・・おまけにそうされて嬉しいなんてキス。
バクバクしてて、とてもじゃないけどともちゃんを見れない。
それはまるで、生まれて初めてキスしたみたいだった。
「那津」
うわ・・・っと思って名前を呼ぶ方を向いてしまえば、
こっちを見つめるかっこよすぎるともちゃんの顔が
思ってる以上に近くにあって、全身がまた大きくドクンとする。
「・・・っ・・」
・・・するとまた、
ともちゃんの名前を呼ぼうとしたオレの
言葉を遮って近づく顔に、
戸惑いながらもどうしたってよけるなんて出来なくて、
反射的に目をぎゅっとして息が止まった。
「ん・・・」
でも今度は少しその唇の感触がわかる。
言葉もやり方もひどく強引なくせに、当たる唇は柔らかくて優しい。
ともちゃんのその紅い唇が、
ゆっくり自分の唇を食むように動くと自然と身体の力が抜ける。
「はぁっ・・・」
息が漏れる。
「んっ・・・ふぁ・・っ」
そうして、一度漏れてしまえばあとはもうだらしなく、
アツい吐息が漏れ続けてしまう。
お互い唇は開いているのに、
舌を絡めようとしないともちゃんのキスは、
ただ優しくくっつけたままで少しだけ離れて、
離れきらないところでまた、ゆっくり優しく押し付ける・・・を繰り返す。
「っは・・っ・・」
こんなキス・・・はじめてする。
ただ優しく、唇が重なってるだけのキス。
離れそうになっても離れないキス。
優しいのに
それはひどく強引で
もどかしくてオレは、どうしてもそれを拒めない。
次第に全身の力が抜けていく。
まったく激しくないくせに
こんなにも全身がドクドクいって気持ちよすぎて・・・
・・・眩暈がする・・・
そういうキス・・・
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