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第49話 那津

「っ・・・はぁ・・・」 ともちゃんの唇が離れると深く息を吸って吐いた。 結局、舌を絡めずにその唇は離れていって、 それなのにしばらくそのキスの余韻で頭ん中が真っ白になる。 「お前のことばっか考えてた」 気づくと冷房の効いていない寝室で、汗をかいた身体がアツい。 きっとともちゃんだって暑いはずだけど、 ともちゃんはオレから離れようとはしなかった。 「ここんとこずっと。 お前の様子がおかしいことはわかってて、なにも出来ずにいたから。 ホントは明日辺りにちゃんと話そうって思ってた」 ちょっとは冷静になって、ともちゃんを見た。 厄介なことにキスをしちゃったともちゃんは、 カッコよさがいつもより3割増しになって、オレの目に映る。 「お前が泣いてるみたいに笑うのを見たくないって思ってた」 バレてたのかと思うとそれは恥ずかしくて少しばつが悪くて、 けれど気づいてくれてたことに嬉しくもなった。 だってきっと、オレは気づいてほしかったような気がするから。 「悪かった」 ともちゃんはまた、謝った。 「先に出てくって言われて焦ったんだ。でも強引過ぎた」 「・・もぅいいよ」 強引にあんな風に腕を引っ張られて、 ホントはちょっと嬉しかったってことは言わないでおいた。 「もう二度と同意なしで襲わないから」 「ど・・同意があればまた襲うの?」 「お前が許してくれるならね」 ともちゃんが目を細めるのがわかる。 優しく笑うその顔に、言ってしまったオレだって気づく。 これはもう、 自分が同意してるようなもんだってことくらい。 「キスしたら余計にわかった。 俺はお前が好きで、だから一緒に居たい」 不意に髪を撫でられるとまた、ドクンと身体が鳴る。 もうずっと、バクバクが止まらないのだ。 「ほ・・んとにわかってる?オレが男だって」 「何度も言わせんな」 正直めちゃくちゃ嬉しい。 こんなことが起こっていいのだろうかといまだに信じられない。 夢じゃなきゃいいなって思う。 現実だったら嬉しい。 けれどあまり期待しちゃいけないとも思う。 ともちゃんを信じてないとかそう言うことじゃなくって ともちゃんは・・・知らないから。 男なんかと付き合ったらどれだけ面倒なのかってこと。 普通ではないという枠に入ることがどれだけ苦しいかってこと。 「一緒に住みたいって思った相手はお前が初めてだ」 「それはたまたま ともちゃんが苦手な事がオレが出来たからでしょ」 「お前は俺をバカにしすぎだ。 料理してくれるからなんて理由でそばにいて欲しいなんて思わない」 「・・・そうかな」 「当たり前だろ」 確かに。 ともちゃんみたいな人はそんな理由で、 誰かと一緒に居たいなんて思わないのかもしれない。 現に出会った頃も今も、このヒトは彼女がいないのだ。 「キスがしたいって思ってキスした」 「ともちゃ・・」 心ん中に、なにかがじんわり広がっていくのがわかる。 「俺はお前と一緒に居たい。お前もそうだろ?」 ・・・きっと。 いつか気づく。 オレとなんて一緒にいない方が良いってこと。 そう思うとつらいけど・・・ ・・・だけど。 「ぅん。オレもここにいたい」 いまはまだ。 ともちゃんのそばに・・・いたい。 するとまたともちゃんのその顔が近づいて、 髪を撫でる手のひらがほっぺを包む。 その手のひらはとてもアツくて、 それは自分のナカのなにかを焦らせる。 「っともちゃ」 「少し黙れ」 また。 ともちゃんは強引に、 とても優しいキスをした。

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