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第50話 友哉
男にキスを、、、
自分がしたいと思って自分からしたのは初めてだ。
「ん・・・っ・・」
那津のいう通り、
ここのところ女性とは縁遠かった俺はキスだって随分と久しぶりだ。
そうして、それにも関わらず
こういうのはしばらくしてなくても
やり方を忘れたりしないんだなと変に感心する。
おまけに、、、
「んぁ・・・」
あれだけ拒否ってたくせに
先に舌を絡めてきたのは那津の方で、
そんな素直さと積極さはまったくもって嫌いじゃない。
とはいえ、
この寝室でまさかコイツとキスをする日が来るなんて、、、
いまのいままで知らなかった。
「はぁ・・・」
唇を離すと、
那津のその可愛らしい表情が暗闇の中でもよくわかる。
「出ていったりすんな」
念を押してもう一度言った。
「・・ん。わかった」
はっきりと返事が聞けてホッとする。
そうして、さてどうしたものかと頭をフル回転させた。
襲って、不発に終わって、
けれどもある程度気持ちは伝えあってキスまでしてしまった、、、このあと。
いったいどうするのが正解だろう。
とりあえずこの暗い寝室からは出ようと決めて、
那津の手を握ると離さないようにして、二人してベッドを降りた。
そのまま寝室のドアを開ければ
そこはやたらと明るくて反射的に少し緊張する。
明るいライトが照らす廊下で手を繋いだまま、
二人して視線も合わせずしばらく黙った。
「っご飯・・食べよっか?」
「、、、だな」
そういえば、まだ飯の途中だったことを思い出した。
いまだ目を合わせず、けれども手を繋いだままでリビングへ戻ると、
いったいこの手のひらはいつ離せばいいのだろうと思いが巡る。
「あっためなおすね」
そんなことを思っている俺を置いてけぼりにして、
那津の方が先に手を離そうとするから、
なぜか反射的にその離れようとする手を引っ張って、
エプロン姿の那津をぎゅっとした。
暗がりの中のキスより、
明るい部屋の中で抱き合う方がなんだか緊張する。
「な・・んか・・緊張する」
「俺もしてる」
言いながら、那津を全身で感じる。
細い身体。
けれど女性とは違う身体のつくり。
いつだってエプロンなんてしているせいか、
それとも幼い顔立ちのせいなのか、那津はどこか中性的ではある。
でも、コイツはちゃんと男なのだ。
そうわかっていて、俺はこの華奢な身体を離そうとは思わなかった。
「そうは見えないんだけど」
「お前が言ってた通り、特定の人が出来たのは久しぶりだ」
「オレは・・ノンケと付き合うのは初めて」
「俺も男は初めてだ」
「じゃあ二人とも初めて同士だね」
「そうだな」
はじめてはいつだってきっと、
恥じらいと興奮とそうして・・・勇気がいる。
那津と視線を合わせた。
すぐにでもキスが出来る距離で見つめると、
那津はわかりやすく恥ずかしそうに視線をキョロキョロする。
そういうところもまた、可愛らしいと思った。
「那津。男のお前が好きだ。俺はちゃんと、お前を見てる」
これだけはもう一度、しっかり面と向かって言わないといけない気がした。
うやむやにしてきてしまった時間があるからこそ、
もうそんなことはやめなければいけなかったし、
あんな風に襲ってしまって、
少なからずコイツを傷つけてしまったのだから。
「ん・・オレも」
那津の腕が背中に回ってもたれるように体重がこちらにかかると、
ようやくホッとする。
自然と瞼を閉じて笑みが浮かんだ。
那津の小さな頭が動いて
クリっとした瞳が下から覗くようにこちらを向くと
「ご飯あっためるね」
笑う那津のその顔は
「やっと、、、」
「え?」
それは久しぶりに見る那津の本当の笑顔。
ようやく、那津に会えたと思った。
心の中だけでもう一度、ごめんと言った。
そうして、那津の柔らかい頬を撫でてそのまま唇をよせる。
那津は瞼を閉じて、もう抵抗はしなかった。
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